「ハァハァ…どうして俺がこんな目に!」
「こっちが聞きたいわよ! きっとあんたの日頃の行いが悪いからだわ!」
「ちっくしょ、もっといいことやっておけばよかった!」
 グミたちが今全力で走っているのには訳がある。初心者のための試練のはずなのに、2次試験に出てもおかしくないほどの魔物…「グリフィン」に追いかけら れてるのだ。洞窟の出口まではあと100メートルくらいだろうか?
「ハァハァ…グミ、ラストスパートいけるか?」
「これでも毎朝走り込んでたんだから…わけないわよ」
 二人とも猛スピードで走り出すが、グリフィンとの距離は開かない。もし追いつかれるようなことになったら、あの爪で腹を裂かれ、生きたまま腸をすすられ るか、灼熱の火炎によって灰に化すかのどちらかだ。
「出口だ!」
やっとのことで出口にたどり着いたものの、グリフィンの荒い息遣いはどんどん近くなっていくばかりだ。
「おぉ、早いねぇ。それでは早速戦利品を…」
「審査官さん! 危ないから下がっていて!!」
「バケモノが来るからこの出入り口で奇襲するんだ。下がっていてくれ」
数秒の間、審査官は呆然としていたが、洞窟から聞こえてくる荒々しい鳴き声に顔を引きつらせたまま、どこかへと逃げていった。
「グミ! 俺が合図するから、それと同時にこの出入り口に向かって攻撃するんだ。うまくいけば俺のバズーカとレフェルの鉄球をカウンターで食らわせられる。それを食 らえばヤツだって…そろそろくるぞっ!」
飛ぶように駆けてくるグリフィンの足音。奇妙な叫び声。どんどん近寄ってきているのは嫌でも分かる。
「シュウ…もし失敗したら?」
「死ぬだけだ。合図行くぞ。3,2,1…」
「おりゃあああああ!!!!」「えいいいいいっ!」
二人の攻撃はそれぞれグリフィンの頭部めがけて繰り出される! タイミングはほぼ同時…かわせるべくもない。
シュウのバズーカ、グミの「我」がグリフィンの頭蓋を完全に破壊する…ハズだった。
「ギャース!!」
グリフィンは額から血を流し、大分効いている様子だったが、赤くぬれたその瞳に宿った殺意は幾分も衰えていない。
「生きてやがったか…うわっ!」
「シュウ!!」
グリフィンはあれほどの重傷を負ったにもかかわらず、疾風のような速さでこちらへと向かってくる。ターゲットは…シュウだ!
「キィン!」という甲高い金属音が鳴り響く。シュウは辛うじてグリフィンの爪を受け止めたようだが、圧倒的な膂力に押されている。あのままでは喉を突き破 られ、グミのヒールがあろうとも、即死は免れない。しかたない…我のスキルを教えるしかないようだな。
「グミ、我を思いっきりヤツに叩きつけろ! その際に『スマッシュ』と叫ぶんだ!!」
「わかった! 『スマーッシュ!!!』」
我の本体はうなりをあげて、グリフィンの側頭部に食いつきにかかる。それだけではない、我が本体はいつもの3倍以上のサイズまで巨大化している。「スマッ シュ」の効果だ。(グミには教えてないが、我には『本体である鉄球の大きさと形状を変化させる』という力を持っている。『スマッシュ』のスキルは名前通 り、鉄球の質量とサイズを増大させ、殺傷力を高めると言う…最も単純だが、ゆえに強力なスキルだ。何故こんなときになってからこのスキルを教えるのかと言 うと…これ以上説明している時間はないな。後で説明しよう。)
鉄球はグリフィンの体をぐしゃぐしゃに押し潰す…かわりに、何年もの間洞窟を外界から隔離していたであろう…古びた扉を木っ端微塵に打ち砕いた。ヤツは絶 対的に有利な状況にあったにもかかわらず、シュウを殺めることなく、一度距離をとったのだった。シュウは命拾いしたが、『スマッシュ』を使用したグミのみ が危ない!
(うっ…体が動かない。このままじゃ私…)
ぐっ…スマッシュの副作用だ。スマッシュは強力な反面、術者にかかる負担も相当大きい。ポーラですら一日に3回までと使用制限を設けていたほどに自分への ダメージと、MPの大量消費をするのだから、如何に訓練をつんだといえども、しばらくは動けないほどに疲労するはずだ。
 あのスキルは絶対にしとめられる場合…もしくは、しとめなければ殺される場合にのみ使用するスキルだったのに…。グミが動けなくなった今、シュウがいく らつわものと言えども、このままじゃ絶体絶命だ。
続く
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