「ひた ひたひたひた」
それはあたかも緑色の波が押し寄せてくるかのようだった。出来ることならそろそろ引いて欲しいものだが、引くどころか我らをまさに飲み込もうとしていた。
ひたひたというあの音はスライムの大群が押し寄せてくる音だったのか…。通路は一本道…逃げるわけにも行くまい。
 解放された我は自分をこの器に繋ぎ止めているものの一つ「鎖」を伸ばす。ジャラジャラという不快な音を立て、龍の口の中からさながら舌の様に這い出てく る。
「よし…このくらいの長さでいいな。グミ、我の言うとおりにしてみてくれ。」
グミは軽くうなづく。シュウは、
「一本道じゃ待ち伏せすることも出来ないな…先手必勝…いくぜ!」
シュウは止める間もなく、緑の波に頭から突っ込んでいく。あれじゃ死にに行くようなもんだ…普通の人間なら。
「おりゃああああ!!!!!」
シュウが繰り出す一撃一撃は、正確にスライムの体を潰す!際限なく押し寄せるスライムの体と、「しずく」と呼ばれる鞭状の組織を受け流し、避けながらスラ イムを潰す。
 …あれは本当に初心者なのだろうか? たかがスライムといえども、初心者にとっては十分な脅威と言える。あのグミもメイプルキノコ3匹相手に立ち回った と言うが、何しろ数が尋常ではない。それをやすやすと倒していくあいつはなんなんだ。歴戦の戦士だといえば、あいつをしらないやつなら信じてもおかしくは ない。いったい何者なのか…?
「グミ、危ない!!」
シュウの怒声が響き渡る。実際には怒ってるわけではないだろうが、我にはそう聞こえた。見ると一匹のスライムが、グミに向かって飛び掛ろうとしているでは ないか! 我はグミに今やるべきことだけを手短に伝えた。
「我が体をフルスイングしろ!!」
グミは言われたままに体をひねり、我が本体を振る! メイスだけのリーチでは前方のスライムには届かないが、遠心力によって強大な力を持った鉄球は、的確 にスライムを吹き飛ばす。
「なにこれスゴーイ! どうしてこんなスゴイの教えてくれなかったの?」
何をそんなにはしゃいでるんだ…。
「まだ時期ではないと思ったからな…もう一匹向かってきてるぞ! 我を斜めに…」
「こうかしら?」
グミが斜め上から繰り出した一撃は、スライムごと地面に叩きつけられ、スライムは溶けて消える。今教えたばっかりだよな? 確か…
「もう使えるようになったのか…ポーラのやつ、なんて教えかたしたんだ…」
やつの教え方は予想がつくが、考えている暇などないようだ。シュウが何か叫んでいる。
「おい! いったい何匹いるんだよ! キリがないぞ!!」
シュウは既に、数十匹ものスライムを屠っていたが、緑色の波がとどまることは無い。グミは、
「私も加勢するわ。1人で相手できる数じゃないもの」
「背後を取られないように注意しろ!もし後ろから襲われて、気を失ったりしたら、こいつらの養分にされちまう!」
話しながらもシュウは、3匹のスライムを薙ぎ払う。
「分かったわ! それにしてもこのスライムたち…なんか逃げようとしてるみたい。何故かしら?」
グミもまた舞うようにスライムを蹴散らす。まだ「鎖」は使えないようだが、この短期間であれほど上達するとは、末恐ろしい。
「さあな…多分ラスボスか何かが、恐ろしくて逃げ出したのかもな」
「それにしても数が多すぎるわよ。この洞窟に住んでいたスライムが、全部出て行こうとしてるみたい」
「相当ラスボスがご立腹なんだろう。ん…スライムはあれで終わりみたいだな」
最後の一波と言うほどではないが、10匹ほどのスライムが出口へと向かって飛び出していく。
何匹かのスライムには焦げていたり、何か鋭いもので切り裂かれたような形跡があった。
「ラスボスは鋭い何かと炎を使えるようだ。覚悟してかかれ!」
我の言うことを聞いてか聞かずか、二人は神経を張り詰めて前方を凝視している。グミはおびただしい量のスライムの滴とメルを拾い集めている。
「10kはカタいわね…」
こんな状況でもメルに気が回るとは…以外に図太いな。だが何が起こったの か、急にシュウの様子が一変する。
「グミ、ヤバイ…。あいつは俺たちの敵うような相手じゃない!! ずらかるぞ!」
「ちょ…ちょっと何よ! 今から来るのを倒さないと転職できないんでしょ?」
「そんなことはどうでもいい! こんなところで死んだら元も子もないだろ」
 シュウはグミの手を引いて出口へ向かって走っていく。こいつほどのやつが、こんなにも焦らせるとは、どれほどの敵なのだろうか? 興味本位のまま聞いて みる。
「いったい何が来るんだ? お前ぐらい強くても逃げなければならないとは…」
「禍々しい翼、鋭い鉤爪、尖ったくちばし、炎のブレス…グリフィンだ」
続く
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