光の 届かない暗い洞窟の中…。審査官から渡された小さなランプだけが闇の世界を明るく照らしてしていた。なんだかとにかくじめじめしてて、いかにも何か出そ う…。道はずーっと奥まで続いていてどこまであるのか全く分からない。
奈落のそこまで続いてるといわれても信じてしまいそうだ。歩いても歩いても先は見えない。
 私はあの時(序章参照)以来暗いところが怖い。暗いところを照らす炎も怖い。どうしてあの惨劇を思い出してしまう。忘れたくても忘れられな…あの事件が 残した爪あとは今でも私の心に消えずに残っている。何時になったらこの傷は癒えるのだろう…。復讐を果たした時? 誰かに助けてもらった時? それとも私 が死んだ時? まぁ最後のはありえないけど。だって私は死んでもきっと恨み続けるから。
「なぁグミ。ラスボスって一番奥にいるんだっけか?」
せっかく人が考え事してるのに…
「ラスボスってなによ。それよりここ…なんだか暗くない?」
「洞窟だからな。怖くなったら俺に抱きついていいぞ」
自分でも意識できるくらい体温が上がるのを感じる。何があってもそんなことしない! そのとき私のメイスから声が聞こえてきた。
「チンピラのボスを再起不能にしたやつが洞窟を怖がってるとはな…娘らしい所もあるのだな…」
低く笑う。レフェルの笑い声は洞窟内に反響し、余計に私のイライラをつのらせる。シュウは、
「そうそう。なかなか気が合うなメイス! ……って喋んなかったか!? このメイス」
あんまり驚いてるようには見えなかったけど、一応状況を説明する。
「このメイスはもらった時から生きて喋ってたわ。さっきまで寝てたみたいだけど。名前は…」
「レフェルだ。こいつは腕はまぁまぁなんだが、色々欠点があるから守ってやってくれ」
そんなに長い付き合いじゃ無いのに何で欠点知ってるんだろう…もしかして師匠が何か吹き込んだのかも…。シュウは、
「あたぼーよ! ボディーガードとしていざとなったら俺の胸にドーンと…・ぐえ」
気が付いたら、レフェルがシュウの横顔に食い込んでた。
「次言ったら、本当に怒るから」
(もう怒ってんじゃん…)(黙ってた方が無難だな…)
*
  グミたち一向は大分歩いたようだが、ラスボスどころか敵の姿一匹たりとも見えない。 ちなみに我(レフェル)が語り部をやっているのは、グミがご立腹だからだ。
シュウが語り手などやってはストーリー自体がメチャクチャになりかねないので、我がやるしかあるまい。
 グミを先頭に我らは一本道の通路を奥へ奥へと進む。グミの噴火を恐れてか、誰も何一つ語ろうとはしない。静まり返った洞窟の中…足音だけが洞窟内に響き 渡る。ポーラ(1章参照)は無駄口を叩くような男ではなかったから、我は騒がしいよりも静寂を好む。しかしこの状況は少し異常ではないだろうか? 審査官 のやつは、
「洞窟内はモンスターでいっぱいだぞー」
と言っていた。冗談には思えないが、我らはまだ一匹たりとも魔物の姿を見ていない。そのときシュウが重い口を開く。
「ちょっと待て。何か聞こえないか? 何かひたひたって…」
「何も聞こえないわよ! そのアンテナが受信した電波かなにかじゃないの!?」
う〜ん…まだ腹の虫は収まっていないようだ。ちなみに我の耳にも何も聞こえてこない。そもそも、ひたひたってどういう擬音だ。答えはすぐに出る。
「ひたひたひたひた」
微かに聞こえた。これ程の微かな音をあいつは聞こえていたというのか?
「ヤバい…どんどん近づいてくるぞ! 身構えとけ!!」
「うん…!」
臨戦状態とあって、グミの怒りは冷めたようだ。怒りは戦闘にとって邪魔な感情でしかない。ポーラにしっかりと教え込まれているようだな。
ひたひたひたひた」
今のは私の耳にもはっきりと聞こえた。メイスに耳があるのかなどという愚問は受け付けない。
時が経つにつれ、ひたひたという音は大きく、そして数を増していく…10匹や20匹ではない。いくらこいつらでもこの数は…これは初心者のための試練では なかったのか? シュウがまた何か言う。
「この数じゃ普通にバズーカ振り回してるだけじゃキツそうだな。しかたねぇ…」
シュウは背負っていたバズーカを持ち直し、どこからか出した、右腕のプロテクターに装着した。さながら巨大なトンファーのようだ。シュウの身体からは鬼気 のようなものがにじみ出ている。
「グミには指一本触れさせない。下がっていてくれ」
何を言い出すんだ、こいつは。さっきの審査官の話を聞いてなかったのだろうか。それとも野生の勘か何かで迫り来る危険の本質を、察知したのであろうか?
 グミは言われた通りに一歩、身を引く。そして、
「私も魔法で援護するわ。死んだりしたら許さないから! レフェル行くわよ!!」
完全に行くつもりだ。しょうがない我も本気を出すか…。
「行く前に我の本体を解放しろ。戦い方を学ぶいい機会だ」
いずれは教えるつもりだったが、こうも早くそのときが訪れようとは…グミは、
「本体ってメイスが本体じゃ無いの?」
こいつは村を出るとき何も聞いてなかったのか? それともポーラが何も言わなかったのだろうか。
「我の本体はメイスの先にある鉄球だ。龍の口に収まっている限りは本来の力を発揮できない。顎から外してくれ」
「あぁ…何か師匠がそんなこと言ってたわね。こうかしら?」
やっぱり忘れてただけか…
ガチャガチャという音がして、我が本体が解放される。その音とともに、ひたひたという気味の悪い音は、いよいよ勢いを増し、こちらに迫って来る!!
続く
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