全力疾走でシュウを追いかけてきたけど…そこには粗末なテントといかめしい扉のついた 変な洞窟があるだけだった。早朝のせいかもしれないが辺りには人一人いる気配が無い。
「やっとついたぁ〜ここが転職場…だと思う」
「はっきりしなさいよ! ホントにここなんでしょうね?」
「おふたりさん…来て早々ケンカかね? ここはリス転職場だよ」
いきなり声かけられてびっくりしたぁ…。誰、この人。
「あの…あなたはどちら様でしょうか? 私たち転職したくてここにきたんですけど」
「ん? ああ…自己紹介がまだだったね。私はここ…転職場の審査官をしているものだ。よろしく」
審査官? 道理でいい服着てると思った。シュウが何か言おうとしてる。
「いや〜審査官さん申し訳ない。連れのものがこのような無礼を…」
「連れのものはあんたでしょ!」
シュウが何か耳打ちする。
(シーッ!せっかくおだてて贔屓してもらおうとしてんだから…)何を考えてるんだこいつは…
「おだてても何も出んよ…。さて…君たちは今日最初の初心者だね。冒険者になるにはある程度以上の知恵と力が試される…引き返すなら今だよ」いきなり何 言い出すのこの人…。
「引き返しません!」「引き返すようなら初めから来ない!」
全く同じタイミング。思わず顔をあわせてしまった。審査官が、
「君たちは許婚かなにかかね? 妙にハモってるようだが…」
「そ…そんなイイナズケなわけないですよ!」
思わず強い口調になる。シュウがにやけてるのもその原因かもしれない。
「ほっほっほ…顔が赤いぞ? 風邪でもひいてるんじゃないのか…?」
「こ…こいつはただのボディーガードです! 死にそうだったから雇ってあげてるんです!!」
シュウはにやけた顔のまま、
「まぁ今のところはそういうことになってます」こいつ…あとでシバく覚えてろ…
審査官は嬉しそうに、
「必死にごまかす所が初々しいねぇ…。まぁ引き返す気が無いみたいだから試練初めてもいいかな?」
試練…試練というからには結構大変なのだろうか…。でもこれを乗り越えないと、魔法使いにはなれない。そういえば聞いてなかったけど、シュウは何になりた いのかな? 遊び人?
「さっさと始めましょう! こんな試練このシュウ様にかかれば5秒ですよ!」
5秒で終わるような試練には思えないけど…
「自己紹介遅れました…。グミです。私はどのくらいかかるか分からないけど……」
「シュウ君は5秒、グミちゃんは分からないと…」
審査官は私たちの言ったことを言いながら、メモを取ってる。きっとここで提示する時間も大事なんだろう…
「いや、チョット待って。その、ごめんなさい…。調子こき過ぎました。1時間はかかると思います」
…バカ。こっちまで恥ずかしいじゃない。審査官は笑って、
「軽いジョークだよ。時間制限なんてないさ」
と言う。なんだ…私はあわてて汗をぬぐう。
「試練は時間無制限で、洞窟の一番奥にいるデカイモンスターを倒して、その戦利品をもってくれば合格だ。一本道だから迷うことはまずないだろう…。ちなみ に戦利品は1人一個が基本だが、PTの場合は二人でひとつでもいいことになっている。わかったかね?」
知らない単語が出てきた…。ねぇシュウと呼びかける。
「シュウ、PTってなに?」
「一緒に戦う仲間ってコトだよどうやらここはPTを優遇してるみたいだから組もうか。組まないと試練中は援護することも禁止だから…」なるほど…。そう なら最初から仲間って言ってくれればいいのに。
「しょうがないわね…審査官さんPT組みます」
こんな試練1人だってできるけど、せっかくだからボディーガード使わなきゃ。審査官は、
「旅は道連れ、世は情けって言うからね。1人より二人、二人より三人と、多勢の方が危険が少ない。それじゃケンカしないで頑張ってきてくれ。中はモンス ターでいっぱいだぞー。門を開けるぞ」
ギィイィィイィーーーっと耳障りな音を立てて大きな門が開く。まるで地獄の門みたいだ。
「シュウ…今回きりだからね」
「わかってるよ。俺がメル返すまでだろ? よし、いくぞ!!」
二人一緒に試練の洞窟への門をくぐる。
この試練の想像以上の過酷さを二人はまだ知らない。
続く
第3章 ぐみ1に戻る