大きめの窓から朝の日差しが入り込んでくる…まだ眠い。もう起きなきゃいけないのは分 かってるけど、体が布団から出ることを嫌がってる。昨日慣れてない遠出なんかしたからかな。
ドタドタと階段を駆け上がってくる音が聞こえてくる。
(うるさいなぁ…誰だよもう)
眠い目をこすりながら上半身だけ起き上がってみる。7時。いい時間だ…さ、二度寝、二度寝…
「バン!!」
一瞬銃声かと思ったけど…それはノックもせずにいきなり開けられたドアが壁に勢いよくぶつかる音だった。こんなマナーを知らない主人はいない…ということ は間違いなく…
「おいこら! もう朝だぞ! さっさと出発するぞ」
え〜まだ着替えも朝ごはんもしてないのにちょっとおかしいよこの人…って今更か。
この無作法で、がさつで、常識を知らないこの青いアンテナ君は、シュウといってひょんなことから(?)私のボディーガードをすることになった青年です。
 なんだか突然現れて、すごいスピードでチンピラをなぎ倒し、何か勝手にグロッキーになって…何でいちいち同じこと説明するのかというと…筆者が大分日があいたので忘れちゃった人もいるかと思って勝手に書き ましたネタ切れじゃありません決して。
何はともあれ今日から血沸き肉踊る大 冒険の始まりのようです。
「着替えするから外で待っててよ! それに普通ノックぐらいするでしょ!」
普通じゃなくてもあんな入り方はあんまり無いと思うのだけれど。シュウが部屋の外へ出る。
「ん〜次から気をつけるよ。そろそろ着替え終わったか?」
まだ10秒と経ってない。そんな短時間で着替えなんて出来るわけ無いとは思わないんだろうか?
「まだに決まってるでしょ! もし覗いたりしたら一生許さないわよ」
自分なりに凄みを利かせてみる。
「どれどれ…冗談だよ。今日は転職場に行くんだろ?」
冗談とは言ってるけどこいつならやりかねない…それにしても転職場ってなんだろ?
着替えながら聞く。
「転職場ってなんなの?」
「なんなのって…普通大陸に来るやつは転職するために来るもんだと思ってたけどな。要するに転職する所だ。行ってみれば分かるよ」
全然説明になって無いけど、どうやら普通はそこに行くらしい。
「私の目的は転職することじゃ無いんだけど…まぁいいわ。私のこと案内してくれる?」
「あぁ…俺の目的地もそこだしな。そろそろ着替え終わったか?」
もう着替えなんてとっくに終わっていたけど、レフェルを起こすために嘘をつく。
「ん? まだ〜。もうちょっと待って」
レフェルをこづく。反応が無い。
「女の着替えって長いんだな。先にロビー行ってるぞ」
階段を下りて行く音が聞こえる。
「レフェルー! 起きろ! 起きなさいっ!」
「我ならずっと起きてるぞ。お前が抱いて寝るもんだから暑くて暑くて一睡も出来なかった。そばに置くのは万が一のためにいいが…抱いて寝なくてもいいだろ う」
本当に寝てないようだ。ちなみにレフェルを抱きかかえて寝た記憶なんて無い。疲れてたからねぇ…
「レフェルが寂しそうだから、一緒に寝てあげたのよ。感謝して欲しいくらいだわ」
「そりゃぁ感謝感謝…少し眠らせてくれ。寝不足だ」
メイスに寝る必要なんてあるんだろうか…とにかくシュウを待たせてるから急がないと。
「おーい! 遅いぞーほら朝飯が冷めちまう」
なんでお前まで食おうとしてるんだと言おうと思ったけど、面倒なのでやめておいた。朝ごはんはパンとよく分からないキノコの炒め物に、地元で獲れた魚の塩 焼きだった。う〜ん…なかなかおいしそうかも。
「いただきます! ん〜美味しい〜」
シュウは脇目も振らずにもくもくとご飯を食べている…。会話する気とかは無いみたいだ。何てやつ…「グミ、食べないならそのおかず貰うぞ」
人の食事まで取るか…普通…。
「食べないわけじゃなくて後に残してるのよ! 自分のだけで我慢しなさい!」
「了解了解ってかぁ」
見ると、シュウはすでに席を立っていた。全然見えなかったけど。
「ごちそうさまでした。とっても美味しかったです」
「どういたしまして。またこっち着たときは寄ってよね」
ホテルの料理人さんに軽く会釈する。まぁここに来ることはしばらく無いと思うけど。
「よし! じゃあ転職場目指してレッツゴーだ。ここから一番近いのは…ってリスにも転職場あったんじゃん」
「じゃ行きましょ。変なとこに突っ走っていかないでね」
半ば本気で心配してる。
「んなとこいかないって! あそこの立て札の方に歩いてけばすぐだよ。くぅーっ…これで俺も念願のガンナーか!!」
なんだかちょっと震えてるみたい。興奮してるのかもしれないけど。
「なんだかよく分からないけど、私は魔法使いかな? 魔法ちょっと使えるし」
シュウが意外そうな顔をする。
「今魔法が使えるっていったよな? 普通は転職するまでスキルは使えないんだぞ? ちょっと見せてくれよ」
「スキルって何か知らないけど…魔法なら見せてあげる。どこか怪我したとこない?」
シュウがコートの袖をまくるとちょっとした擦り傷があった。
「何かどっかに引っ掛けたみたいでさ。まぁ大して痛くないんだけど」
私は掌に精神を集中して、傷に手を添えた。
「ヒール!」
緑色の淡い光が傷を癒していく…。あっという間に傷はふさがった。
「うゎ…すっげぇ直った! 魔法なんてはじめてみたよ。転職する前からそんなんじゃきっと大物になれるぜ。まぁ俺もだけどな」
最後のは余計だけど、褒められたのが嬉しくちょっと笑ってしまった。
「さぁ…いきましょう! 早くあの人みたいにならなくちゃ!」
私は立て札のさす方向に歩いて行く。
「ぁぁそうだな! …あの人って誰だ?」
シュウも私に付き添うように隣を歩いてくる。
「シュウは知らなくてもいい人よ。私の憧れの人なんだから、あんたみたいな人に語って欲しくないから」
「ちぇ…まぁいいや。ほら、あのテントの辺りだ! 他の初心者が来る前に一番乗りだ!走れー!」
「ちょ…ちょっと…」
私が引き止めるまもなく、シュウは全力でテントのほうへ走っていく。ボディーガードなんて本当に出来るのかしら…?
続く
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