青年は迫り来る弾丸に怯むことなく、大きな鉄の筒を後ろ手に持ったまま大地を駆ける! 灼熱の弾丸は青年の腕、頭部、脚などに食らい付こうとするが、青年 の素早い動きに掠る事さえ出来ない。
「畜生! もっと…もっと撃ちまくれ!」
「パンパンパンパン!」
青年を血祭りにすべく放たれた銃弾もむなしく、青年の接近を許していた。鉄の筒を振りかぶる!
「うおりゃああああああ!!!!!」
前で銃撃していたチンピラ二人をやすやすとなぎ払う。青年は笑いながら、
「銃弾ってのはお前らと違って正直でな。真っ直ぐ飛ぶんだよ。だから手前らの慣れない銃の扱いじゃ銃口見てれば避けるなんて訳ない」
前方のもう1人の頭を鉄筒で叩き割る。グミを抑えていたチンピラたちは震える手で青年のことをポイントしていた。
このままじゃ避けることなんて出来ない…というより小刻みに振動するそいつの指は、今にも引き金を引いてしまいそうだった。青年は失笑しこう言った。
「人を殺す覚悟も無いような雑魚が銃なんざ持つんじゃねぇ…銃に失礼だ」
さっきのバカ面とはうってかわって鋭い顔つきになる。まるで別人だった。人はあれほどまで違った表情を見せるのだろうか? 成年は銃を蹴り上げ、がら空き の腹にパンチを打ち込む。その一発でチンピラは「うっ」とうめき声を上げその場にうつぶせになる。
「おい、グミ!! あんなのに見とれてないで目を覚ませ! 我に語り部なんかさせるな!!」
レフェルの言葉でふと我に帰る。
「ごめん…あんまりにも強いから。あんなのが普通にいるなんて、ちょっと自信なくなっちゃったかも…」
私が落ち込んでいる間にもアンテナ君は銃を持ったチンピラたちと戦っている。既に4人のチンピラがその場にうずくまったり、気絶しているみたい…それにし てもあの鉄パイプ効率悪そう…・重そうだし、殴るための武器じゃ無いように見えるんだけど…
「お前らそいつを囲め! 3人で包囲すれば勝てる!」
チンピラたちは一斉に電波君を取り囲む…が、既に特徴的なアンテナは姿を消していた。
「おせぇんだよ!!!!」
後ろだっ! 何年も訓練した私でさえはっきりとは見えなかったのだ。そんじょそこらのチンピラには消えたように見えたに違いない。電波君は3人を一発で薙 ぐ。チンピラたちは将棋倒しのように倒れる。起き上がってこれないことは誰の目から見ても明らかだった。
「くそ…こうなったらこれしかねぇ!」
チンピラのリーダーっぽいやつが私を掴み、こめかみに鉄を当てる。あれってさっきバンバンやってたやつかな…あの電波君には当らなかったけどこの距離じゃ 確実に当たるかも…あれって当ると痛いのかな。
「おい電波! 少しでも動いてみろ…この小娘の頭に風穴開けるぞ…!」
風穴開けるだって? そんなに威力あるなら今すぐ逃げなきゃ…もしかしたら死んじゃうかも…
 電波君の動きが止まる。やっぱり私は人質に取られてしまったみたいだ…なんだかとっても惨めな気持ちになる。チンピラリーダーは勝ち誇った顔でこう言っ た。
「妙な真似は考えるなよ。そのバズーカを俺の前に投げろ」
電波君は言われたとおりに鉄の筒を投げ捨てる。バズーカっていうのか…あれ。でもあの武器を奪われちゃ、あの電波も…って笑ってるし。…また変態に戻った のか?
「お前…何か勘違いしてないか? 勝ったとか思ってるんじゃないだろうな?」
「はぁ? 何言ってんだ。おまえ…気でも狂ったのか? いやそれは生まれつきか…。頭が悪いようだから説明してやろう。いいか? 俺はこいつを人質に取っ てるんだ。お前はなすすべなく、自分のバズーカで撃ち殺されるんだよ!」
残忍な顔になったチンピラはバズーカを電波に向け引き金を引く。やられる! 私はとっさに目をつぶろうとするけど、まぶたは一向に降りてこない…このまま じゃあの人が…
 目の前で大量虐殺をなされるままに見た私、飛び散る血飛沫、絶叫…。幼い頃の忌まわしい記憶がまざまざと思い出される。嫌…もう大切な人を失いたくな い…あ、あれはまだ名前も聞いてない人だけど、私を助けてくれようとしてくれた人だからって意味よ。多分…。
それにしてもいつになったら弾出るんだろ? もう結構時間経った気が…レフェルが何か言ってる。
「あのバズーカには最初から弾なんて入ってなかったみたいだな」
ぇ…。怒りに顔を歪めるチンピラを前に、青年は哄笑しながら言う。
「お前ら雑魚に使う弾なんざねェよ。知ってるか? 銃弾ってのは結構高いんだぞ?」
「バカにしやがって…そんなにこの女の脳漿ぶちまけられたいのか? あ?」
完全に調子に乗ってるなこいつ…
「だからさっきからおまえ何言ってんだ? 俺はその娘とは全く関係ないし、殺してもらってもかまわない。まぁそんなことするやつは俺がブチ殺してやるが ね。たとえ逃げても同じだけどな」
そういって右手の袖から短銃をだす。…ん? 私を殺してもいいだって!? いいわけ無いだろ!! こうなったら自力で逃げるしかないのか…この気持ち悪い 人も大分動揺してるみたいだし、今がチャンス!
「えいっ!」
私の肘がチンピラのみぞおちに突き刺さる。完全に油断していたのか、チンピラは銃を取り落とす…人に散々言っといて自分も弱いじゃな…。食らえ怒りの鉄 槌!!
「よくもやってくれたわねー!!!!! くらいなさいっ!」
レフェルの先っぽの鉄球がチンピラのあごを打ち砕く。あーあ…きっとあの人、一生硬いものは噛めないし…下手したら二度としゃべれなくなったかも。…でも か弱い私にあんなことしたんだから当然の報いよね。少し浮いたチンピラの体は、ドサッと地面に叩きつけられ、口から血混じりの唾液が出てくる…うぇ…気持 ちわる。電波はチンピラが地面に叩きつけられる音でふと我に返ったようだ。
「かわいい外見に似合わず、凶暴だな…」
「花も恥らう乙女に向かって何が凶暴よ! それよりその物騒なものしまってよ!」
電波は思い出したように銃を袖に戻す。鋭かった顔つきが一変する。
「凶暴なんて言ってごめんな…。あんまり強いもんだからつい…ね? それよりお怪我はありませんか? お嬢さん」
…明らかに戻ってる。さっきのカッコヨサはなんだったのかしら…。
「私のことなんか死んだっていいなんて言ってたくせに何言いだすのよ」
「いや…だからあれはあんなことを言って相手を動揺させてるうちに、君を助けようとだね…」
電波は必死に弁解しようとする。
「あのときの目は絶対に殺してもいいって目だったわよ…それよりあなた、名前は?」
どうせもう会わないんだから、名前なんてどうでもいいことなのに、つい聞いてしまう。
「俺の名前はsy…うっ…バタッ」
え…倒れちゃった。もしかして避けたように見えた銃弾も実は何発か当たってて、我慢していたのかも…それって、もしかして私の責任じゃない!
「ちょ…ちょっともしかしてどこか痛むの? ヒールかけてあげようか?」心配そうに私は尋ねる。
「…メシ…。3日前から何も…」
そして彼は気を失った。これってやっぱりレストランまで運ぶべきなのかしら?
続く
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