大抵のモンスターは同じような場所に、同じようなモンスター同士で住むことが多いが、互 いに協力し合うことは少ない。それはごく当然のことだ。何せこいつらに協力するなんて高等なことができるほど頭脳がないからだ。それではなぜ同じ場所に生 息しているのか。
答えは簡単……その場所に住処として適しているからに決まっている。しかし、しかしだ。
いくらその場所が住み心地がいいとしても、そこに生息できる数は限られている。
食料や縄張りの関係から起こる、当然のことといっていいだろう。
その絶対数は小さいモンスターなら多く、大きいモンスターなら少ない。
その逆は物理的に無理なのだ、
だが、今起こっている事態はそういった常識から考えると、ほぼ100%ありえないことになっている。
温泉があったところを中心に、ドーナツ状に夜行の群れが文字通り密集しているのだ。
その数はといえば、ゆうに千匹はいるだろう。もっとかもしれない。
ここから生きて帰るには、どうにかして逃走する、ないしは殲滅するしかない。
だが、逃げるにしても数十メートルをひとっ飛びできる人間は存在しないし、これだけの数を相手にするのには歴戦のつわものが30人、クレリックやプリース トといった聖職者たちがいればもう少し楽だろう。
しかし、ここにいるのはウィザード一人、戦士一人、動けないクレリック一人だ。戦っても結果は火を見るより明らかである。
となれば、選択肢は一つしかない。どうにか突破口を開いて、逃げ切ることだ。
そして、その作戦は既に実行に移されていて、我はユアの背中とグミの間に挟まっている。
居心地はなかなか悪いがしょうがない。あそこに放置されなかっただけでもユアには感謝しなくては。
「アッシュさん、わたしは戦えませんので援護お願いします」
鋭い目つきで前だけを見据えたユアが言う。アッシュは右手に雷の槍を作ることでそれに応える。
「何匹蹴散らせるかわからないが、できた道を走れ! サンダースピア!」
まさに電光石火の勢いで飛び出した雷の槍はやすやすと五匹の夜行を貫き、その勢いで細い道を作る。だが、すぐに隙間を埋めようとする夜行に阻まれてほんの 数メートル走っただけで止まってしまった。わずかにできた亀裂もあっという間に埋めてしまうのだった。
アッシュは苦しい表情をしながらも、冷静に自分の考えたことを話していく。
「これは仮説に過ぎないが、おそらく身の程知らずの冒険者たちが天然の温泉があるとかいって、団体で夜行にされてしまったのではないだろうか…」
ちなみにアッシュとてただ話してるだけではない。全身に冷たい冷気をまとい始めているのが傍目から見てもわかった。ユアも体全体で白い大地を威嚇しながら 話す。
「確かにそうかもしれません……ですが、この量はどう見ても異常です」
「夜行は生きるもの全て夜行にすることが目的だから、対象がいれば鼠算式に増えてもおかしくない」
とアッシュがすぐに返す。二人で話している余裕は既になかった。いつ夜行たちの赤い舌が身に届いてもおかしくない距離までやつらは近づいてきていた。
舌が届くか届かないかというぎりぎりな距離でアッシュはためていた魔力を解放する。
「アイスストライク!!」
アッシュを中心に起こる雹の嵐。近づいてきていた夜行はもちろん、中心付近にいた夜行全員の動きが止まった。しかし数でいうと全体の十分の一にも満たない 数で、しかも大多数は動きを緩めただけで凍った仲間たちを乗り越えて向かってきていた。
アッシュもそれを予測していたのか、すぐさま大量の魔力を使ったサンダースピアで道を切り開いていく。アッシュは正確に一方向にサンダースピアで道を作 り、アイスストライクで居場所を確保するのを交互に繰り返していった。
しばらく進んで、白い大地を三分の一ほど駆け抜けた頃だろうか。ついに最悪の事態が訪れた。
「アイスストライク!!  サンダー……くっ」
アッシュは氷が吹き荒れる嵐の中心で、つらそうに膝をつく。
今までよく頑張ってきたアッシュも最後にアイスストライクを唱えた瞬間、魔力が底を尽いたようだ。
「くっ…大魔法の連続使用が堪えたか…」
アッシュの異変に気づいたユアは、背負っていたグミをそっとアッシュの腕に委ねて言った。
「ここからはわたしが行きます。グミさんを頼みましたよ!」
「わかった…だが援護は期待しないでくれ」
両手の開いたユアは後ろを振り返ることなくうなづいて、ニフルヘイムを構えて言った。
「ニフラ…力を貸して」
ユアが小さくつぶやいたのを聞き逃さなかった。そして、大きな布を刃物で切り裂いたようなすごい音がした瞬間に、三匹の夜行が全身をずたずたに刻まれて吹 き飛ぶ。
まるで剣山のようなもので斬られたとしか思えないようなズタズタの傷跡が圧縮された冷気のせいであることがわかるのには時間がかかった。
ユアは後ろに守るべきものがいることを自分に言い聞かせ、修羅のごとく夜行を惨殺していく。夜行には逃げる余裕どころか念仏を唱える余裕すら与えられな かった。
ユアが槍を一振りするたび、三匹前後の夜行が屠られる。今までもユアの強さには恐ろしいものを感じていたが、ニフルヘイムを手に入れたユアは以前の数倍の 力を持っていた。
もはやユアと同レベルの戦士など、そんなに存在しないのではないだろうか。全盛期のポーラには劣るものの、その強さには鬼気迫るものがあった。
もしかしてなんとかなるのかもしれない。そういった可能性が生まれてきた矢先のことだった。
アッシュが悲鳴に近い声でユアのことを呼んだのだ。
「ユア氏…!」
ユアが長い髪を振って見た先には、自分を無視して我を含まない二人を狙っている夜行たちの姿があった。ユアの強さを見て怖気づいたのか、本能的に弱者を先 に狙ったのかはわからない。だが、それはこちらにとって思わしくないのは確かだった。
「このっ…」
ユアは鋭い蹴りを放ち、夜行を押しのけて二人の救出に向かう。まさに間一髪と呼ぶにふさわしいタイミングだったが、なんとか二人とも夜行の餌食にはならず に済んだ。
だが、しかし助かったのは一時的なことである。ユアが二人を守る代わりに前進することができなくなったことは夜行たちにとって実に都合がよかった。
「少しでも動きがとまるといいが……スロー!」
アッシュもスローを用いて、夜行の動きを制限しようとするが、魔力が十分でないためあまり効果を得られなずに、じわじわと夜行は近寄ってくる。範囲も十分 ではなかったようだ。
そんな中、ほとんどしゃべることもなくアッシュにしがみついていたグミが口を開く。
「アッシュさん、私が足手まといにならないように盾を張るよ……」
「大丈夫か?」
アッシュは心配しながらも、グミを降ろす。グミは一瞬だけ自分の足で地に立ったが、バランスを崩して倒れてしまった。相当消耗が激しいらしい……盾を張る どころか立つことすら厳しいとは……まだ早すぎたか。つらそうな二人を見て、ユアが二人に寄り添って三人の中心にニフルヘイムを突き立てる。
ユアがやろうとしていることは、その目を見ればすぐにわかった。
「あの技で辺り一帯を吹き飛ばします。離れないでくださいね」
二人とも無言でうなづく。ユアは槍に力を注ぎこんで叫んだ。
「グラン…バースト!!」
カラスのときに見たときと同じように、地面から鋭い氷の槍が無数に突き出す。
しかし、ユアも体力を消耗しているからか、逆さツララがいつもより細く、夜行を貫通するだけで終わってしまった。まぁこれだけの太さで体を貫かれたりした らまず間違いなく死ぬのだが、夜行たちを倒すには不十分だった。
「くけけけけけけ」
串刺しになった一匹の夜行が、断末魔のかわりに狂ったような笑い声をあげる。
「なにこれ……」
グミがぼそりとこぼした直後、他の夜行たちも呼応するかのように狂った笑い声を上げ始めた。
それを聞いた三人は耳を押さえて、うずくまる。信じられないほどの不気味さ、不快さに背筋が凍ってしまったようだ。さっきまであんなにも勇猛果敢だったユ アでさえも目を閉じて、耳をしっかりとふさいで耐えていた。その状態が数十秒ほど続き、いつまでも鳴り止まないと思われたけたたましい笑い声が突然止ん で、一瞬だけ森が静まり返る。
三人が何が起こったのかわからずに混乱していると、夜行たちの目が一点を向いていることに気づいた。数え切れないほどの黄色い二つの目の焦点は、アッシュ に抱きかかえられたグミだった。
全員がターゲットは一番弱いもの。グミに決定したことを悟る。
最初に動きを見せたのは、ユアであった。
「危ない!」
ユアはそう叫び、アッシュごとグミに体当たりをする。両手をふさがれていたアッシュはなすすべもなく転倒した。アッシュは軽く打った腰をさすりながら何と か立ち上がるものの、自分がもともと立っていた位置を見て絶句する。
「そんな…ユア氏!」
数え切れないほどの夜行が、次々とユアがいた位置へと積み重なっていた。そこにユアがいるのかわからなくなるほどに、白い布だけが折り重なっている。
「ユアさん…そんな……」
「くそっ…」
グミは泣きそうになりながらユアのいたところを見つめる。
アッシュは杖をかざし、魔法を唱えようとするものの、ユアを傷つけることを考えるとできない。夜行に包まれたものの末路が脳裏に浮かぶ……。
くそっ…悪態を吐きたいのは我自身だった。グミを消耗させたのも、存在しているだけで何の役にも立っていないのは我だけだ。我にも自由に動かせる手足があ れば……自分の身など投げ出してでも、あの山を崩すというのに。
我の中の何かが鼓動を始める。圧倒的な破壊衝動に気が狂いそうだった。
我が自分の中の何かと戦っているうちに、次のターゲットはが選ばれる。残るは戦えない二人だった。
「マジックガード!」
アッシュは残り少ない魔力でマジックガードを展開し、ちょうどグミと二人では入れるくらいの範囲だけを覆う。アッシュのマジックガードは疲労のこともあ り、元気なグミの作り出すシールドと比べると、あまりにも薄く、簡単に壊れてしまいそうだった。
だが、薄い壁にも夜行は容赦なく飛び掛ってくる。アッシュは苦しそうな声で、グミに言った。
「長くは…もたないことは知っているだろう……。頼む、ヒールアタックを……今ならまだユアさんも助かるかもしれない。くっ…」
アッシュは五体の夜行に同時に体当たりされ、反動に片膝をつく。
グミは折り重なった白い夜行の山を見て、目を見開いき、まだ動けないはずの体を鞭打って、魔力を集中し始めた。ヒールアタックをする覚悟ができたのだろう か。ついさっきほぼ完全に使い切ったはずの精神力を、限界まで高めていく。
だが、その直後に夜行の山がはじけ飛んだ。二人は一時何が起こったのかわからず、夜行の山を凝視するが、中から現れたものを見てグミだけが安堵の息を漏ら す。
中から現れたのは白銀の毛を持った、狼だった。
瞬く間に五匹の夜行がボロ雑巾と化す。
そこから始まったのは、ほとんど無差別に行われる大虐殺だった。狼の爪が、牙が、冷気弾が目に映る全てを死骸へと変えてしまった。
一瞬にして惨殺した夜行の屍骸の上で、狼が天に向かって吠える。
「姉さんになにをしやがんだ! 死の臭いが染み付いたシーツども、皆殺しにしてやるからな!!!」
アッシュもグミもしばし呆然とするが、あまりの狼の凶暴さ、残虐さに目を閉じることすらできなかった。
その後、狼は宣言通り、自分の分身と共に夜行たちを狩り出した。
狼は凄まじい勢いで夜行たちを殲滅していく。さすがの夜行もじりじりと後退していく。
「なんなんだ……あの白い獣は…」
アッシュは目を見開いたまま、独り言のようにつぶやく。
グミは、
「あれ、実はユアさんなの……。ユアさんの中にはもう一人、あのおおかみが住んでいて、ピンチのときに出てくるんだって……」
とユアのことを説明する。アッシュはありえないと思わいながらも、今まさに目の前で起こってる現実に信じることしかできなかった。アッシュは驚きながらも 安堵しているようにも見えた。
狼が自分の分身まで出して、ものすごい勢いで夜行の海を掻き分けていく様子は二人を安心させるのには十分だったようだ。
夜行の数がもとの半分以下くらいまで減ったぐらいになった辺りから、夜行たちの様子がおかしくなった。
今までは単純に食べ物に群がる虫のようだったが、今度は一箇所に積み重なり、混ざるようにして集まりだしたのだ。
「なにあれ……」
グミがそうこぼしたのもつかの間、見る見るうちに夜行が集まり、合体していく。たくさんの粘土を全部くっつけて一集めにしたような……奇怪な白い物体が森 の真ん中に出来上がっていた。
最初はただ丸いだけだった物体がごろんと転がり、卵を割って出てくるヒナのように布の一部を割いて黄色い双眸と赤い舌が飛び出した。
考えることを拒むほどの嫌悪感を抱く、巨大な夜行が狼の前に立ちふさがった。
二人はあまりの大きさに息を呑むものの、アッシュはチャンスだといって逃げようする。
なにせ巨大な夜行がいるものの、以前ほどの面積は占めていないのだから、逃げることには容易だと気づいたのだった。しかしそれが間違いだと気づく前に、二 人は目の前の光景に目を疑う。
巨大な夜行に臆せず襲い掛かった狼が、巨大な舌に舐められたのだ。狼は事切れたかのように地面にぐったりと倒れる。
「うそ…おおかみさんが一発で……」
さっきまであんなに優勢だった狼が一瞬でやられたのを見てグミが言葉を失う。
アッシュも信じられないといった様子で、今目にしたことを説明し始めた。
「消えて、気づいたら狼の背後にいた。舌が出たところも見えなかった…」
ぞくりと存在しない我の背中に悪寒を感じる。狼をしとめた夜行の黄色い目が、二人をにらんでいた。
「マズイ!」
アッシュはとっさにグミを降ろそうとするが、ついさっきまであんなに遠くにいた夜行は既に目の前まで瞬間移動していた。あまりに常識を逸した移動方法に、 緊急回避も間に合わず二人同時に舌の餌食になる。アッシュは凍ったようにあわてた表情のまま、硬直して倒れてしまった。
夜行はにっこりと目を細めて、二人そろって死のカーテンを被せようとするが、なぜかグミにはまだ意識があった。
「いや……ユアさん、アッシュさん……」
夜行は一瞬止まったようだったが、問題ないと判断したのか、グミに体を深く被せた。
*
暗い、寒い、何も見えない。私はどこにいるの? 
指が動かない。私の体なのに……本当にここに私はいるの?
ユアさんは?
アッシュさんは?
私を置いて行っちゃったの……?
それとも、私の代わりにいなくなってしまったの?
ねぇ、誰か返事してよ。何も聞こえないよ。
「…………!!」
足に何か触れた。冷たい……指? 
指はどんどん私の体を這い上がってくる。それも一本だけじゃなくて、いっぱい。
どんどん数が増えていく。体はどんどん冷たくなっていく。
「……!」
指が私のポケットに触れて、何かとがったものが服越しに肌を刺す。
ポケットに入っていたのはなんだっけ。何かのカード?
…そうだ。昨日の夜、シュウに連絡したギルド証。
久々に連絡したのに、シュウがまともに返事してくれなかった。
何があったのかは知らない。でも、返事してくれなかったのはひどい。
氷のように冷たい手は、更に数を増して私の体を這い上がってくる。
体温はどんどん失われていく。手足の感覚も……なくなった。
「……」
誰か…誰か来てよ。
ねぇ、シュウ。
シュウ、返事してよ。
シュウってば!
……
………
もしかして……私のこと嫌いだったの?
いなくなってせいせいしたの?
私が、私が生意気なこと言うから?
「………!!!」
叫ぼうとしたのに、全然言葉が出ない。
腕の一本が首を絞めていた。
苦しい……シュウ、助けて……。
苦しい。何も考えられない。
誰かが耳元でささやいてる。
「俺たちの世界へようこそ」
「バカだなぁ……あの方に従わないから、こんなことになったんだよ」
「死ね死ね死ね死ね死ね死ね………」
いやだ。私はみんなと、まだ旅がしたい。
「おめでとう。この布を掛ければ、俺たちの仲間さ」
冷え切った体にザラザラした布が掛けられていく。
これで俺たちの仲間……それってどういうこと? 
死ぬ……の?
私の脳裏に「死」という文字が浮かんだ瞬間。私の中心で、何かが爆発した。
*
一瞬のことだった。我もグミごと夜行に飲み込まれた。
着々と進む”取り込み作業”。
完全な闇、無数の腕、布。
確実に死んでいた。いや、生きたまま夜行にされていた。
だが、完全に隔離された世界の中で光が生まれた。
淡い緑がグミを中心に闇色を塗りつぶした。今までの世界が嘘のように、開けていく。
気がつくと夜行は消え去り、もとの暗い森に戻っていた。
グミの隣でアッシュさんが倒れていた。そして、少し離れたところにユア、もといおおかみも倒れている。二人ともぐったりとしたまま、しばらくは動くことす らままならないだろう。
グミも仰向けに倒れたまま、眠っている。
全てが停滞した森の中でグミの寝息だけが静かに聞こえていた。
「ふぅ…」
我は大きなため息を吐く。我にもグミにも痺れた二人を、旅館に連れて行くことはできない。
全員が目覚めるまではここで待ちぼうけというわけだ。
我がもう一度大きなため息をつこうとした瞬間に、アッシュの頭がゆっくりと持ち上がる。
「なんだ、あの光は…。それに…なぜ体が動く」
アッシュが苦しそうにこぼす。だが、こっちだって何がなんだかわからない上に、知ってたとしても我はただのメイスということになってるから伝えることはで きない。
アッシュはそのまま体を動かそうとするが、まだ完全には回復していないようで、また地面に突っ伏した。
「ぐあ…」
遠くで狼が呻く。狼もアッシュと同じように体がまともに動かせないようだ。
しかし、狼はアッシュと違って必死に体を動かし、地を這って来た。
鋭い牙が覗く顎にはニフルヘイムがガッシリと咥えられている。
狼はゆっくりと確実にこちらへ近づいてくる。狼も体が痺れているなりの動かし方がわかってきたようだ。狼がユアだと知らないアッシュは逃げようと体を動か すが、その前に狼が口を開いた。
「あんた、体は大丈夫かい?」
「しゃべれるのか……」
狼は口の端をゆがめて言った。
「だめそうだね。姉さんから頼まれてる……あたいにおぶさりな。二人共だ」
狼は両足を震わせながら、体をうまく使ってグミを背負う。
それを聞いたアッシュは全身を震わせながら、長い杖をついて立ち上がった。
「見ず知らずの狼に背負われる義理はないさ。大体グミ氏だけで精一杯だろう…自分の足で歩くよ」
狼は我を更に口に咥えながら言った。
「さっきまで指一本、瞬きひとつできなかったのに……なんなんだろうね」
アッシュはちらとグミを見て、言った。
「わからない。だが、ひとつだけわかっているのは……グミ氏は私の試験に合格したということだ」
アッシュがそこまで言ったところで、二人ともすやすやと眠っているグミを見る。
二人共それぞれを一瞬にして行動不能にした夜行を倒したのは、間違いなくグミの力だとわかっていたが、誰もそのことを口にすることなく黙々と旅館への道を 歩きだした。
続く
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