「潮の匂いはするけれどもなかなか港は見えてこない…ま、まさか迷ったとか!?
出発早々迷子とはこれから行く先どんなことになるやら…
「おい! 何時になったら港に着くんだ? もしかして迷ったんじゃないだろうな?」
うっ…メイスのくせに的確に痛いところをついてくる…
「きっともうすぐよ…。ほらあれ船じゃない?」
ずーっと遠くに船のマストのようなものが見える。ざっと10キロはありそうだ。
「そうみたいだな。…だからちゃんと柄をつかめって!」
レフェルが怒鳴る。
「それくらいいじゃないの。それよりほら…敵よ」
前方に赤や緑といった色とりどりの沢山の点が見える。シゲじいの本(以後モンスター辞典)に載ってる赤デンデンとか青デンデンとか言う雑魚モンスターだろ う。
「雑魚デンデンどもだな。あんなの虫だけに無視するに限る」
寒っ…
「…あなたを使う訓練よ! 行くわよレフェル!!」
私はレフェルを両手で抱えて疾走する。レフェルは気乗りしない様子だったけど、そんなの知ったこっちゃない!
 目の前の赤い殻のデンデンに狙いをつける。戦士としての試験から殻が固いのは知ってるわよ…そのやわらかそうな身体に攻撃っ!
「えいやっ!」
メイスをその柔らかそうな体に向かって叩きつける! …がただのデンデンよりも赤デンデンは素早く、攻撃に殻を合わせてきた。
「ぐしゃ!」
撥ね返されるとばかり思っていたけど、レフェルは殻の防御力などものともせず、デンデンを叩き潰した。
「レフェル…すっごいじゃない。見直したわ」
「やつらが弱いだけだ。ほらどんどん来るぞ」
せっかく褒めてやったのにひねくれたやつ!
デンデンは仲間がやられたのを見ても特に気にしていないようだったが、私めがけて一匹ずつ押し寄せてくる。
「とぅ! うりゃ! 食らえっ!!」
私が攻撃を繰り出すたびに、デンデンは殻ごと砕かれ溶けて行く。なんだか面白かった。
辺り一面がメルと殻で埋まってるのも私を上機嫌にしている理由のひとつだ。後で拾おうっと…。
「なぁ…もう十分狩ったろ? 日が暮れる前に港町に行かないと凶暴なモンスターがでてくるかも知れないぞ」
レフェルはその身でデンデンの殻を砕きながらも、つまらなそうに呟く。こいつに従うのはまっぴらだけど、言ってることはもっともだった。
「じゃあそろそろ行こうか…。私の行く先を邪魔するやつだけやっつけて行くね」
振り向きざまにもう一匹デンデンを潰す。少しでも経験を重ねた方がいいに決まってるよね。これから旅費もかかるんだからメルも必要なんだし。
「勝手にしろ…。我はもう寝るから、乱暴に扱うなよ」
「ガコン!」
ぁ…石にぶつけちゃった。石が粉々になる。
「ぐー」
寝てるじゃん。こいつの言う乱暴に扱うってどの程度のコトなんだろ? 鋼鉄の扉かなんかをしつこくノックすることかな? まぁそんなこと考えたって無駄 か。
*
 そんなこんなで私はデンデンをなぎ払いながら港町「サウスペリ」に着いた。辺りはすっかり夕暮れ時である。レフェルはまだ寝てるみたいだけど、早く船に 乗らないと最終便が出ちゃうかも…!?
「最終便が出るぞー! もう乗るものはいないかー?」
まずい、あの箱舟の船長の声に違いない。私はありったけの声で叫ぶ。
「ちょっと待ってください! 乗りまーす! 乗りますってば!」
「うるさいぞ…目が覚めちまったじゃねぇか。ん…もう港か」
レフェルが目を覚ましたようだったが無視して船着場まで走る。船長には聞こえてたみたいだけど、他の乗客さんたちを待たせるのは良くないと思う。
「かわいらしい旅人さんだね。ほら早く乗った乗った!」
間一髪間に合ったみたい…なんだかこれからもギリギリで間に合うとかそういうの多そうな気がした。
「出航だー!! 錨を上げろー!」
「オーッス! せーの!!」
船長や乗組員の威勢のいい掛け声とともに錨が引き上げられる。ん……浮いてる!?
「お譲ちゃん、飛行船は始めてかい? この船は魔法の石の力で浮くんだよ。原理は知らんがな」
知らないおじさんが説明してくれる。なるほど…と、飛んでる。
「わーすごい!私の住んでた村があんなに小さく……」
初めて見る壮大な景色の中には焼け野原のような一角もあったはずだが、あまりの感動により気付くことは無かった。燃えつくされた私の生まれ故郷。
「飛行船ぐらいでがたがた騒ぐな。これくらいのコト旅人じゃ常識だろうが」
もっと人の気持ちを考えて話せないものか…ん、いいコト思いついた! メイスに話しかけるなんて怪しいにもほどがあるから、できるだけ小さな声でレフェル に話しかける。
(ちょっとあんまり大きな声出さないでよ。レフェルはメイスなんだから、しっかりメイスらしくしてないと、ここから落とすよ)
(こいつならやりかねん……大人しく黙ってたほうが無難か。)
どうやら今の一言が大分効いたらしく、レフェルはその後から一言も話さなかった。そのおかげで私は空の観光を満喫できた。
*

数分後。
「リス港に到着です。出口の方の方から順にお降り下さい。お忘れ物無い様お気をつけ下さい」
あー…やっと着いた。ここが大陸の玄関口リスか。それにしてもやっぱり地面に足がついてないと生きてるって感じがしないよねー。
「レフェル、もういいよー」
「ちっ…こいつマジで苦手だ…」
「お生憎様」
辺りはもう薄暗いし宿屋を探さなきゃ……いったいどこだろう? 後ろから声をかけられる。
「嬢ちゃん、一人かい? なんなら俺らのとこ来て楽しいことしないか?」
いかにもって感じな顔した人たちだ。下品な声…。もしかしてこの大陸流のもてなしかなんかかしら? それにしてもひーふーみぃ……8人も出迎えてくれるな んて何て優しいところだろう。気のせいか目が狂喜じみているけれど…。
「さぁこっちきな!」
かなり強く手を引かれる。もうちょっとやさしくしてよ、もう…。レフェルが何か言う。
「おい、こいつらチンピラだ。さっさとぶっ倒して、宿探そうぜ」
なんだチンピラか…チンピラが私みたいな女の子を連れ込んですることといったら、いいことである訳無い。私がチンピラの腕を振り解こうとしようとしたその とき…
「おいコラ、チンピラども! そんないたいけな女の子連れ込んで何する気だ! さっさとその薄汚い手を離しな!!」
なんか出て来た……
続く