神社の境内の奥には見たこともないような橋や木々があって、どこを見てもきれいだった。
でもまぁ…景色も香る花も気に入ったんだけど、このキノコとか鳥とかいっぱいいるのはどうにかならないかな…。
私がきょろきょろしてるうちに、一匹のカラスが私の後ろから飛びかかってきていた。
「カー!」
「きゃああ!」
私はびっくりして悲鳴を上げ、さらにカラスを払いのけようとして派手にしりもちをついてしまう。
私を転ばせた…というよりも私が勝手に転んだんだけど、そのカラスは私の頭上を旋回して
「カーカー」
とバカにしたように鳴いていた。
私は悔しさと情けなさで溢れそうにある涙をこらえて、レフェルで反撃に出ることにした。
「レフェル、行くわよ!」
私がレフェルの鉄球に手をかけた直後、バーンという大きな音と一緒にうるさく飛び回っていたカラスがバラバラになって空気に溶けた。
私が大きな音がしたほうを振り返ると、そこにユアさんとヤクザの竜さんがいた。
「グミさん、大丈夫ですか〜?」
ついさっきまで瀕死だったヤクザを背中に背負ったユアさんが言う。
でもユアさんは拳銃なんて使わないから、カラスをやっつけたのは竜さんだろう。
案の定、銃口から煙をなびかせながら、竜さんが言った。
「嬢ちゃん、こっから先はもうちょっと強いモンスターが出るんだが…大丈夫なのか?」
竜さんは、まだしりもちをついたままの私に向かって、明らかな疑惑の視線を送ってる。
私は起き上がって、精一杯強がった。
「私だって戦えるから、バカにしないで! 今のはちょっと…びっくりしただけなんだから!」
「ふぅん…まぁ、とりあえず先を急ごう。こっちだ」
竜さんは肯定とも否定とも取れる態度をとってから、私の前を通り過ぎて進んでいった。
釈然としない私の肩にユアさんが手を置いて言った。
「グミさんはとっても頼りになりますよ。わたしも竜さんも、今は全力で戦えないんです。だからグミさんが頼りなんですよ」
ユアさんはそう言い終えると、にこっと笑ってくれた。全然嘘なんてない本物の笑顔…私もいつかユアさんみたくなりたいなぁ…。綺麗で、強くて、やさしく
て、かっこよくて、スタイルがよくて…私なんてどれひとつとして勝ってないけど、いつかは…。
「グミさーん、行っちゃいますよー」
気づいたら、二人はずっと向こうにいる!?
「まってー!!」
私は二人に置いていかれないように、全力でダッシュした。
*
「森の大分深くまできましたね…えいっ!」
ユアさんは、目の前の動物みたいなモンスターをなで斬りながら話していた。左手だけでヤクザの人を背負いながら、右手にはしっかりと槍を握っていた。で
も、やっぱり戦うのは大変そうみたい…私が頑張らなくっちゃ!
「レフェル、行くよ!」
「勝手に行け」
かわいくない…けど、そんなこと言ってる場合じゃない。なんせこんなにいっぱいモンスターが群れてたんだから。なんかわからないけど、いっぱいいたのは背
中がめらめら燃えてるたぬきさんたちとキツネさんたち。
「私たち急ぐから…ゴメンね!」
レフェルの鎖つき鉄球が一度に二体のモンスターを吹き飛ばす。
今日はお祭りかなんかだったのかな…私はそんなことを想像しながらも、邪魔なモンスターを片っ端からなぎ倒していった。
それと同時に、竜さんも拳銃を抜いて何匹かのモンスターを撃ち殺しながら言った。
「もう少しで俺らの領域だ…目の前の敵だけ倒してくれ」
竜さんはしゃべりながらも、どんどん弾丸をばら撒いていき、進行方向にいるモンスターだけを正確に撃ち抜いていった。
ユアさんと私も竜さんに続いて、もうすぐ見える森の切れ目へと突進していった。
森が…急にオレンジ色の夕焼けに変わる。
動物だらけだった森が、一瞬にして古びた…カニングのちょっと違う番みたいな場所に移って魔法みたいだった。私がオレンジの景色に見とれている間に、複数
の気配が動いてることには気づかなかった。
「えっ…」
私が声を出すのもつかの間、怖い顔をした男たちに取り囲まれていた。
それぞれが手に思い思いの武器…というか、即席の武器見たいのを持っている。
その中でも一番大きくて怖い顔をした男が言った。
「おい、女ども。ここが誰の縄張りかわかってんだろうな? さっさと出て行かないとひでぇ目に遭わすぞこら!」
「く……」
さすがのユアさんも槍を固く握り締め、汗をかく。私は怖くて、ユアさんにしがみついているだけだった。
しばらくの間様子を見ていた竜さんがついに口を開く。
「おい…ここは誰の縄張りだ? 言ってみろ」
竜さんはきわめて普通に言ったのだけれど、周りの男たちは凍りついたように表情を引きつらせた。
仲間のうち一人が、恐る恐る言う。
「竜幹部…なぜこんなところに…」
「ここは誰の縄張りかと聞いている」
「ヒィッ…すいやせん!」
その男は悲鳴を上げて一歩下がってしまった。他の男たちも、少しずつ逃げてる。
さっきまで、私たちのことをにらみつけていた男だけが残って、竜さんに聞いた。
「竜幹部、その女たちはどこで捕まえてきたんですか? さっそくみんなで…」
竜さんはそれを聞いた瞬間に引き金を引き、いやな男の足元の石畳を砕いた。いやな男はたまらずに、へにゃへにゃと座り込んでしまった。
「この二人は俺と虎次の命の恩人だ。これからアジトにこの二人を招待する。今すぐ接待の用意をしてこい!!」
「は、はい〜〜!!」
男たちは、情けない声でそういうとあちこちにぶつかりながらアジトのほうへと走っていった。
さっきまでの緊張感が急に途切れ、私もへなへなと地面に座り込む。
「若い衆が空気を読めなくて悪かった…それじゃあ、アジトまで案内しよう」
まだ起き上がれない私に竜さんが手を差し伸べてくれる。私は一瞬迷ったが、その手を借りることにした。
続く