「な、何でお前がこんなところにいるんだよ!」
「それは僕の台詞だ。サインさん、どういうことか説明してください!」
俺の目の前でいがみ合う二人。シュウとコウ君は見えない火花を散らしていてが、いつの間にか俺に向けて強烈な視線が送られている。
説明しろって言われたってなぁ…。こいつらの関係なんて知るはずないし、そもそも……なんでこいつら初対面なのに喧嘩してんの?
「サイン兄!」
「サインさん!」
うわ…すごい勢いで迫られてる。タイミングまで一緒…こいつら、もしかして兄弟?
でも髪の色も目の色も違うしな…もしかしたら、こいつら初対面じゃないのかもしれないな。
「もしかして、お前ら…友達かなんか?」
「誰がこんなやつと!」
「天地がひっくり返ってもそれはないです」
俺の真剣な質問は即座に否定され、とにかく否定、否定、否定…の嵐だった。
壮絶な口げんかにうんざりした俺は、二人の間に入って諌める。
「まぁ、お前らの関係なんて俺にはどうでもいいんだけどさ。そろそろ修行始めたいからさ……なんなら力ずくでやめさせて、俺とナオだけで修行するぞ?」
さすがに俺の一言は効いたらしく、二人はすぐに喧嘩をやめて視線を逸らす。
やれやれ……もうちょっと物分りがいいといいんだがな。
「とりあえず、そのうち強くなったらケンカさせてやるから、それまで我慢してろよ。それじゃ、お前らを試験するからな。やる試験は全部で3つだ」
俺はそこまで説明して、指を三本たてて見せる。シュウ、コウ、ナオの三人は熱心に聞いているようだった。俺は話を続ける。
「今日は試験だけやってお前らの適正を見るからな。試験はまず、お前らのシックスセンスを見極める。次に集中力、最後に気合だ。なんか質問はあるか?」
シュウが真っ先に手を上げ、コウ、ナオの順にゆっくりと手を上げた。俺は、一番最初に手を上げたシュウを指名する。シュウの質問は予想したとおりのもの だった。
「さっきからシックスセンス、シックスセンスって…いったい何のことなんだ?」
俺は、オホンと咳払いしてから答える。
「シックスセンスってのは第六感……簡単に言えば勘のことだ。これは個人差こそあるが、普通は鍛えられない部分でもある……でも、戦闘に関しては人間の五 感…触覚、視覚、聴覚、嗅覚、味覚なんかと同じくらい重要なもんだ」
シュウはよくわかってないようだが、戦闘に関しては才能があるから…実際にやればわかるだろ。
俺は次にコウを指名する。
「それで強くなれるんですか?」
「なれる……かどうかはお前ら次第だ。まぁがんばれ」
コウ君はどうしても強くなりたいらしいな……。俺は最後にナオを指名する。
「それって危ないのか?」
ナオらしい質問だな……。
「めちゃくちゃ危ない。下手したら死ぬかもしれないな」
「帰っても……」
「ダメ」
俺はナオが最後まで言い終える前に言う。
普通死ぬかもしれないって言ったら、そういう反応するだろうな。ナオは心底嫌そうな表情をするが、帰る気はないようだ。よかった…。
「まぁ、ほかに質問ないようなら、試験始めるからー……まずは、お前らのシックスセンスを試すぞ。とりあえず、これ…」
俺はポケットから取り出した3枚の布切れを渡す。色は白じゃなくて黒で、結構長い。
「それを頭に巻いて、目が効かないようにしてくれ」
全員言われたとおりに渡された布で目をふさぐ。布が長いから、三重くらいにしないとちょうどいい長さにならなかった。
「それで、なにやるんだよ?」
これはシュウの質問だ。俺は今わかると言って、小さい何かをシュウに向けて投擲する。
「痛ッ!」
シュウは何かがぶつかった腕を押さえる。続いて俺はコウとナオにも小さい何かを投擲する。
それぞれコウは右腕に、ナオは左手にめがけて放ったが避けられた。
「まぁ普通は避けられないよな。痛かったか?」
「そんなに痛くないですが…これは一体?」
これはコウの質問。俺は質問に答える。
「これがシックスセンスを試す試験だ。お前らは目の見えない中、勘だけで俺の飛ばすパチンコ玉を避けろ。ちなみにナオは一発目も避けた」
シュウはかなり驚いた表情で…といっても口元だけしか見えないが、ナオのことを褒める。
「ナオ、よくあんないきなりで避けられたな…どうやったんだ?」
「なんとなくだけど…」
「スゲー」
実際あれを避けられたのは驚嘆するに値することだ。パチンコ玉が飛んでくる音なんてほとんどしないし、匂いも気配もなにもないからな。
まぁ、そんな考察は後でするとして、試験を続けるか。
「じゃ、これからお前らにパチンコ玉を一人10発ずつ投げる。だが、ここで制限をつける。俺が狙う箇所は右腕、左腕、頭の三箇所だが、お前らはその三箇所 のうちひとつしか動かしちゃいけない。わかったら、両手を降参のときみたく軽くあげてくれ」
全員がサボテンのような形で手を上げる。準備は整った。
「じゃ、試験開始」
俺はそう言って、第一投目をそれぞれに投擲する。
全員の額に赤い痕がついた。
続いて二投目、三投目とパチンコ玉を飛ばしていく。
シュウは両腕、コウは額と右腕に命中し、ナオは額に迫った玉だけを避けた。
俺は合図することもなく、五投目、六投目と続けて五発の玉を放つ。
「痛ッ!」
コウとナオはそれぞれナオは二発、コウは一発避け、シュウは全部命中した。シュウの両腕、額には赤い痕がしっかりと残っている。
最後の一発か。俺は全員の額に向かって投擲する。すると……
なんと全員が避けた。ナオとコウはともかく、シュウも避けられたか……。
「はい、試験終了。布とっていいよ」
全員が黒い布を解き、それぞれ思い思いの行動で目を慣らした。
俺は結果だけを報告する。
「えーっと…ナオが最初のを含めて五発、コウ君は二発、シュウは一発だけ避けた。ナオはずばぬけてできる、コウ君も標準以上だ。シュウも一発避けられたか らまぁまぁかな」
それぞれナオは表情を変えず、コウは少しうれしそうだ。シュウはというと…不機嫌そうだった。
ぼそっとシュウが呟く。
「ちぇ…ようやく、玉が飛んでくる音に慣れたのにな」
俺は危うくずっこけそうになるが、何とか体勢を立て直す。
うわ…こいつシックスセンスとか全然使ってないし…なんてやつだ。
俺はシュウのずば抜けた感覚に驚きながらも、できるだけ落ち着いて次のテストに移る。
「えーと、次は何だっけ」
「集中力です」
「そうそう。次は集中力のテストだが……またこのパチンコ玉を使う。俺がパチンコ玉をお前らに向かって投げるから、それをそれぞれの武器で弾け」
俺が言い終えると、シュウは二丁拳銃、コウはでかい両手剣、ナオは黒い小手を装備した。
やる気満々のようだな…シュウの目なんて明らかにやってやるといった光を宿してる。
俺は試験を始める前にもう一言付け加えた。
「最初はゆっくり投げるが、段々早くなってくからなー。それとシュウ、間違っても俺に当てんなよ」
「銃弾は当てない」
他のは当てるつもりかよ……。
当たるつもりはないけどな。俺はパチンコ玉を取り出し、一人十発…計三十発取り出し、右手に握りこむ。
「じゃあ、まずナオからな。いくぞ」
ナオは手裏剣を取り出し、俺の攻撃に備える。まずは一発…俺はかるーく弧を描くように投げる。
キンといういい音がして、パチンコ玉は手裏剣と一緒に床に落ちた。俺はそのまま二発三発と少しずつスピードを上げて投げる。ナオは難なく弾いた。
「ふぅ…じゃあ普通に投げるから」
俺はサイドスローでパチンコ玉を投げる。ナオは4,5,6,7と手裏剣をでパチンコ玉を弾く。
なかなかいい集中してるじゃないか。俺はむきになってかなり早い玉を投げる。
「…っ」
八発目にして、キンキンと鳴り響いていたリズムが途絶える。パチンコ玉はナオの胸に食い込んで、地面に落ちた。
「はいはい、弾けなかったから試験はここまで。ナオは七発だな。次はコウ君の番だから、準備はいい?」
「……」
返事がない。コウはすでに神経を集中して、剣を構えていた。目は閉じたままだが、どこにも隙はない。俺はナオにしたように、軽くパチンコ玉を投げる。
「……!」
ガキンと鉄の砕ける音がして、パチンコ玉が俺の後ろの壁に食い込んだ。
一瞬のうちにコウの目は完全に開いて、正確にパチンコ玉を弾く…というよりも破壊したようだった。
俺は動揺を隠し、さっきと同じように少しずつスピードを上げて玉を投げていった。
ガキン、ガキン、ガキンと玉が壊されていく。あぁ…俺のパチンコ玉が……。
コウはすさまじい集中力で、ナオを落とした八投目を弾き返した。俺はさっきよりも早い九投目を投げる。コウは何とか食らいつき、弾くが壊すまでには至らな かった。俺は最後の一発を全力で投げる。
「う……」
高速で放たれた玉は、斬撃をかいくぐり、コンクリートの壁に突き刺さった。
当たったら痛いじゃすまなかっただろう。
俺はコウに試験終了を告知する。
「コウ君は九発…すごいな。最後のは当たらなくて当たり前だから、気を落とさないでくれ。次、シュウ…」
「サイン兄、ちょっといいか?」
シュウが俺の言葉をさえぎって何か言いたそうにしている。
「なんだ?」
「最初の方の玉も全部、九回目くらいの速さで投げてくれ。もっと早くてもいいけど、遅すぎるとやりづらいし時間がかかるからさ」
よほど自信があるのか、シュウは挑戦的言った。おもしろい……やってやろうじゃないか。
「一発目ではずして泣くなよ。いくぞ!」
シュウは両手の銃を構えて、安全装置をはずした。
俺は連続でパチンコ玉を投げる。どれもコウが苦戦した九投目と同じ速度…常人が見切るのはまず不可能だ。常人ならな……
キンキンキンキンキンキンキンキンキン!!!
………目にも止まらぬ早さで撃たれた拳銃からは、白い硝煙が立ち昇っていた。地面にはパチンコ玉が転がっているから、全部打ち落とされたのだろう。俺は右 手に残る最後のひとつのパチンコ玉を握り締める。
ここまで馬鹿にされると癪だな…全力で投げてやる。
俺は心の中で誓い、ありったけの力でパチンコ玉を投擲する。
だが、手が滑り暴投してしまった。目にも止まらぬ速さのパチンコ玉がシュウ目掛けて飛んでくる。
当たったらただではすまない。
だが、シュウはというと…
「それだ!」
俺の全力のストレートを絶好球だといわんばかりに歓喜し、見事に投げた力とまったく反対方向の力で青い銃弾を放った。
ガキンと音を立てて砕けた玉の残骸が、俺目掛けて飛んでくる。
これは普通には避けられないし、当たったら痛そうだ。仕方ない……
「サベジスタブ!」
俺は取り出したナイフで飛んできた鉄の破片を叩き落す。シュウはチッと舌打ちをした。
「シュウはあきれた集中力だな。次今と同じようなことやったらぶん殴るよ」
凄みを利かせて言う。シュウはまったく反省してないようだが…。まぁいい、これなら十分実戦でやれるな。
「最後の気合は、もう十分伝わってきたから…カットする。早速修行に移るぞ」
コウはやる気のようだったが、シュウとナオは露骨に嫌そうな顔をした。シュウに至っては、
「一週間もあるんだろ? 今日はもう帰ろうぜ」
なんて言ってる。コウはそれに対して内に秘めた怒りの表情をあらわにしていた。
俺はひと悶着起こる前に、餌で釣ることにした。
「シュウ、そうだな……お前らの修行が十分だと判断したら一週間経つ前に終わらせてもいいぞ? まぁ疲れたなら、帰って休んでもいいけどな」
「さぁ、お前らさっさと修行に行くぞ」
シュウはすでに支度を済ませて、扉の前に立っていた…呆れたな、まったく。
そんなにあの二人と一緒がいいのか。
ふいにピピピピピっと何かが鳴る。呼び出し音はシュウのポケットからだった。
シュウはポケットから取り出したカードを見て絶句し、すごい勢いで悔しがっていた。
一体なんて書いてあったんだろうな…と思いつつ、シュウは思い出したようにマイクに向かって何かを告げていた。よく聞こえなかったが、多分こんなことだ。
「修業しにいったらコウがいた」
続く
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