「はぁ……はぁ……」
「シュウ、うるさいぞ」
チクショウ、俺がなんでこんな目にあわなきゃならないんだ。あんなおいしい状況に預かれないだなんて、ため息が出るのもしょうがない。大体なんで俺が今更
修行なんか…
「はぁ……」
三歩歩いてはため息が出る。一緒に歩いている連中も野郎だけだし、しかもここは温泉街ではなく汚らしいカニングシティだ。どこを見てもくすんだビルにガラ
の悪い男しかいない。
「シュウ、そんなにため息ばっかりついてどうしたんだ? おなか減ったのか?」
サイン兄が、呆れたように呟く。ナオは黙々と歩いていてるだけだ。
そういえば、朝飯も昼飯も食べてないな。まぁ、本当の理由は違うけど、そういうことにしておこう。
「何も食べてないからな…はぁ」
「うんうん、嘘はつかなくていいぞ。あの二人と行けなかったのが、寂しいんだろ。いや、むしろ風呂のほうだろ」
うっ……。全て読まれている。しかもわかってて連れていくあたりが憎い。
ナオも顔こそ動かないが、心の中では大爆笑に違いない。俺が一体何をしたって言うんだ。
「とりあえず、まぁ腹減ってるってのもあるだろうから、これを食え。ただの固形食糧だが」
サイン兄は歩きながら俺にブロック状の食料を渡す。渡された石のようなそれを軽く口に含むと、パサパサしてまずかった。ナオは平然と喰っているが、よくあ
んなまずいものをよく食えるな…。
俺は味わないように、一気に飲み込んだ。サインも同じようなものをかじりながら言う。
「今日は…修行する前に、お前らの腕と欠けているところを見るからな…それと、ひとり紹介しなきゃならないやつがいる」
「もうぶっちゃけなんでもいいよ……それと、どこに向かってるんだ? なんか廃ビルの数が増えてきたが……」
グミたちと別れてから、かれこれ数分は歩いてるが、よくよく考えれば俺たちがどこに向かってるかも知らなかった。サイン兄はあごで廃ビルのひとつを指し
た。修行する雰囲気どころか、人の気配すらないんだが。
「誰かいるな…」
ナオがぼそりと呟く。俺には全然わからないが、サイン兄はうんうんと頷いていた。
「さすが盗賊だな。いいシックスセンスしてるよ…シュウはまぁ、しょうがないな」
何だよシックスセンスって…。
「今、シックスセンスって何だよとか思ったろ? あとで説明するから、さっさと歩いてくれ」
なんなんだ……。俺は納得行かないながらも、黙って従う事にする。
建物が近づいてくるにしたがって、ブンブンと風を無理やり凪ぐような音が聞こえてきた。
近づけば近づくほど、音の大きさは増していく。それと共に掛け声のようなものも聞こえてきた。
「さっきから聞こえてくる、変な音はなんだ?」
俺は思わず質問する。ナオは先に誰かいるんだろと軽く流したが、サイン兄は「がんばるなぁ…」と何かに感心し、
「かなり待たせてるから、走るぞ」
と言って、気づいた時にはドアの前まで移動していた。俺とナオも走って追いつくが、どちらもサイン兄がどうやって移動したのかわからなかった。
サイン兄は、意味深にドアの前で足踏みしてた。サイン兄は、怒ったように言う。
「お前ら、もっと急いできた風に振舞えよ。俺らメチャメチャ遅刻してんだから、誠意だけでも見せないと。もっと息切らして、汗流して…」
「サインさん、遅いです」
「うおおお?」
サイン兄が寄りかかっていたドアが勝手に開いて、ドアの隙間からどこかで聞いたような声がした。
サイン兄はすまなそうに頭をかく。
「こいつらが朝に来いって言ったのに、ついさっき来たからさ……まぁ、待たせて悪かったな」
サイン兄が謝ってる途中で、ドアが完全に開いた。するとそこには……茶髪でどこかで見たような…思い出した!
「あ! そのどこかで見たようなツラ…」
「あ! その不恰好なトンガリ…」
「コウ!」「シュウ!」
コウ…どこぞで狩り勝負した、生意気な戦士。
永遠のライバルとして、しばらく会わないかと思ったら…なんとわずか数日で再会してしまったのだった。
*
シュウとコウが運命の再会(?)をしていたときグミたちはというと…
「うんっ! なんかよくわかんないけどおいしー!」
「ほんと美味しいですね…このたこ焼きっていうの食べ物」
「ユアさん、次あれ食べよー!」
………キノコ神社の出店で食べ歩きしていた。多分、シュウのことなど五秒で忘れたことだろう。
とにかく、珍しい、美味しいといって食べまくっている。
グミもユアもあの細い体で、どこにそんなに入るのだろうかというほど食べている。
甘いものは別腹とか言うやつもいるが、旨い物も別腹なのだろうか。
何も食べる必要がない我には不要なことだが。
グミが、また新しい食べ物を持って我とユアが待つベンチへと駆けてくる。
「焼きそばっていうの買ってみたんだけど、すごい美味しいよ! このソースってやつ最高だね!」
シュウがいなくて安心していたが……この二人だけにするほうがよっぽど大変なことだったようだ。
我は、グミがこれ以上買わないうちに話を変える。
「グミ、焼きそばもいいがシュウがいなくて寂しくないのか?」
グミは焼きそばをほおばりながら答える。
「モグモグ…別に…寂しくなんかないよ。もぐ…そうだ! シュウに自慢しよう」
だめだこりゃ……
続く