友情を取って死ぬか、友人を殺してでも生き残るか…
くそっ、何でこんなことになったんだ。俺はただ、家に帰りたかっただけなのに!
「ナオと戦え」
俺が言われたのはそれだけだ。だが別に俺はヤクザの手下になった覚えはないし、殺せとは言われてない。だけど、もしも俺が逃げ出したりしたら…ナオと戦っ ても、殺すことができずに立ち尽くしていたら……ヤクザはどういったことをするだろうか。
決断の時間もそんなには与えられていない。
恐らくそれはナオも同じなのだろうが、とにかく時間がなかった。
どちらかを選ばなくちゃいけない。
俺は……まだ死ぬわけにはいかない。ナオには悪いが……
シュッ
俺の頬を何かが切り裂いた。あまりに鋭利な刃物で切り裂かれたようで、血はすぐに出てこなかった。
「ぐ…!」
ぱっとはじけるような痛みが、呆然としていた俺を目覚めさせる。
目の前には黒い影…目だけを出したハイドフードに、制服のような黒装束。そいつが、右手を軽く上げ「かかってこい」とでも言うかのように俺を誘っていた。
ぎらぎらと輝く日本刀を持った隣にいる影は、間違いなくナオだった。ナオは、マスクに隠された口元をゆっくりと動かす。
「俺はまだ死ぬわけにはいかない。次は外さない」
実際ほとんど聞こえないが、多分そんな内容だったと思う。
俺と同じこと考えてるんだなと思って、吹き出しそうになった。要するに殺し合いしようってことなのにおかしいな…相手があのナオだからかな。
俺はおもむろに袖から拳銃を出し、ためらうことなく引き金を引く。
暗闇の中にぱっと火花が散り、ソウルブレッドとは違う……数限りある実弾が、ナオの顔面目掛けて吐き出された。弾道はもちろん…脳天に一発即死コースだ。
ナオは首をかしげる動作だけで、銃弾を避ける。俺は口の端を吊り上げて笑う。
「クク、俺がお前に殺されるわけないだろ。殺し合い…開始だ」
殺したくはない、でも死ぬわけにはいかない。だったら殺してでも生き残るしかないだろうが!!!
「うおおおおおおおおおおお!!!!」
俺が夜空に向かって放った咆哮は、俺とナオの戦いだけでなく、ヤクザ同士の戦いの合図にもなった。

*
まずい…あいつ、全然わかってねえよ。今の銃弾も完全に俺を殺す気だったし…。
あ、自己紹介が遅れたけど、俺の名前はナオ。シュウとはガキの頃からのダチだ。
なのに…なのにだ。あいつは何もわかっちゃいない。俺のことも、この世界のことも…。
いつでも考えなしで、自分が正しいと思った方に突き進む。俺には真似しようとしても真似できないところでもあるんだけどな。
とにかくだ。あいつは殺気があるかないかぐらいわかんないのか…?
殺気ゼロの手裏剣で、こっちは戦う気全然ないよって伝えたつもりなんだけどな…。
俺だって、ヤクザのボスは怖いが、二人なら何とかできないレベルじゃない。
どうやって俺が戦う気がないことを伝えればいいんだ…なんか叫んじゃってるし。近所迷惑考えろよ…怒られるの俺なんだからさ。
うわ、マジで撃ってきやがった…! ああもうなんで、俺はこいつの友達なんだ!
知らないやつなら2秒で消すのに


*

ナオの戦い方はこうだ。絶対に自分の身を危険にさらさずに、ジワジワと敵をなぶってから、止めを刺さずに耳元で囁く。
「死にたくなかったら降参しろ」
ナオは別に殺せないわけじゃないんだ。
ただ優しいからか、性格が悪いからかは知らないが、一撃じゃ仕留めない。急所を狙えば一撃で死ぬっていうのにだ。雑魚モンスターでさえ、すぐには倒さな い。
組み手…っていうよりもほとんど全力で戦ってたが、そのときもそうだった。
木でできた手裏剣を急所以外のところを狙って投げてくる。木のナイフで殴っては逃げる。
危険は冒さない。俺はまったく逆の戦い方だったが…勝率は五分五分だった。
今は俺の勝率のほうが上がってるだろうけどな!
「パン! パン! パン!!」
俺は、ナオの頭、右腕、左足を目掛けて三発の銃弾を放ち、空いていた左手でボムを作り出す。
ナオは、ジャンプして銃弾を避け、回転しながら無数の手裏剣を投げつけてきた。
手裏剣は小さな弧を描いて、俺の肢体を狙ってくるが、なんてことはない。俺はバズーカで当たりそうなやつだけを弾き飛ばし、ボムをぶん投げた。激しい爆発 による熱風と煙で何も見えなくなる。
見えないのはナオも同じはずだが、手裏剣は俺目掛けて飛んできていた。
明らかに前よりも強くなってやがる。俺はあえて弾かずに、そのまま煙の中へと突っ込んだ。
足と手の皮が切れ、血がにじむが、戦闘に支障はない。この煙は俺の作り出したチャンス…これで決めてやる。
俺はバズーカに込めた榴弾に精神力を注ぎ込み、大声で叫んだ。
「彗星!!」
続く
第10章12 ぐみ5に戻る