明日は私の誕生日。みんな私のことを祝う準備をしてくれていて、近所の人からあの師匠にいたっても何かプレゼントを用意しているらしく、ゼフおじさんもい つになく張り切っているようだった。でも私のためにやっていることは全て無駄になってしまう…私は誕生日の早朝にこの村を出て行くことに決めた。 みんな とお別れのあいさつなんてとても出来ない…・きっと村を出るどころか、この村にずっといたいという気持ちに負けてしまうだろう。それに別れの涙なんて見せ たくない…。大切な人たちだから私が出て行くと宣言して行くよりも、何もいわずに出て行ったほうが精神へのダメージも軽くすむはずよ。私はこれから一人で 生活していくんだから、弱さなんて見せることは出来ない。村の外は弱肉強食の見知らぬ世界なのだ。
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「グミちゃん、明日の誕生日は期待しておきなよ!おばちゃんが素敵な服を用意しておくからね!」
防具屋のおばちゃん。基本的には防具を作る人なんだろうけど、ここで武具を買う人なんてほとんどいないので専ら洋服を作って生活しているみたい。ゼフおじ さんも私もおばちゃんの服のデザインや完成度の高さが大好きだし、おばちゃんが私を見ると安く(きっと材料費の分も無いじゃないかってぐらい安く)売って くれたんだ。きっと誕生日プレゼントというからには特別なものを作ってくるつもりなのだろう…きっとその頃には私はもう村を旅立っていると思うけど…少し 惜しい気持ちもあったけどそこは振り切るしかない。
 道行く人に次々と声をかけられる。「おいしい料理持ってくぞ!」村の食堂のコックさん。「我輩の作った新しい薬を…」ちょっとおかしな調合師さん。「俺 の相棒を持ってけ」師匠。「君のために何か作っていくよ」村の男の子。私より2つくらい下だけどいつも仲良く勉強(?)した。「わしの歌を…」シゲじい… それはいらない。他にも何人かに声をかけられたけど、狭い村だからかな…噂というものは広がるのが早い。明日の昼からパーティーの予定まであるそうだ。い くらなんでもちょっと大げさな気もするけど…
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練習用メイス、絆創膏、携帯食料、寝袋、ナイフ、メル、日記、青ぽ…必要なものは全部持った。メルはお小遣いを貯めた心細いものだったけど、船賃と1週間 くらいの旅費ならありそうだ。ひとりで生活なんて本当に出来るのだろうか…心配してもどうしようもないか…。明日は早い…もう寝よう。さようならベット、 さようなら机、さようならゼフおじさん……。
「ガタン」
物音がした。ゼフおじさんが上ってくる音に違いない! いそいで荷物をベットの下に隠す…というより押し込む。
「どうぞー」
「グミ、入るよ」ゼフおじさんは心なしかいつもと様子が違うようだった。
「明日は16歳の誕生日だね。この村の掟は知っているだろうね」
正直に答えるほかない。
「16歳になったら村を出て大陸にいかなければならないのですよ…。近いうちに出て行くつもりです」
近いうちって言っても明日なんだけど…
「そうか…寂しくなるな。明日のパーティーは盛大に祝うからそれだけは見て行ってくれ…お願いだ」
ゼフおじさんにお願いされることなんて今まで数えるほどもないことだった。私がお願いすることは両手両足の指を足しても全然足りないんだけど。
「うん。明日に備えて私もう寝るわ。おやすみ、ゼフおじさん」
これがゼフおじさんとこの村でかわす最後の言葉になるのだろうか…
「あぁ…おやすみ」
ドアを開け一度だけこちらを振り返って下の階への階段を下っていった。
思えば生まれ育った村を焼かれたあと、食事から何まで全て面倒を見てくれたのはゼフおじさんで、実の親よりも長く一緒に生活しているのだった。勉強や料理 を教えてもらったり、時には叱られたりもしたけど本当によくしてくれた。感謝してもしきれない…。目の奥が熱くなる。泣く訳には行かなかった。今泣いてし まったら二度とここを出て行けないような気がした。
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来るべき朝がついにやってきた。辺りに人気はなく、日も出ていないので外は寒々としている。行かなくてはいけない…。今を逃すと優しかった村に対する未練 が残る…リュックに手をかける背負おうとするが手が震えて上手くいかない…
(何を恐れているの? グミ…しっかりするのよ!)自分に対して喝を入れる。ようやくリュックを背負えた。物音を立てないように階段を下りる…ゼフおじさ んも気付いてなさそうだ。ロビーへと着いた。出口の扉がとても遠くに見える。一歩ずつ進んでるはずなのに、扉は少しも近づいてこない。わかっている…扉が 遠いんじゃなくて私が怖がって歩みを進めようとしないだけ。勇気を出して一歩一歩進んで行く。ついに小さい頃はドアノブに手が届かなかった大きな扉へとた どり着いた。細心の注意を払って扉を開けるとそこには……
「16歳の誕生日おめでとう。グミ、お前が今日旅立つことはみんな知っていたよ」
ゼフおじさん…どうして…
「そんな…誰にも言わなかったのに、何でバレたの…?」
「お前はよく顔に出るからね…1週間前くらいにはみんなわかっていたみたいだよ」
ガーン! 私って顔に出やすいタイプだったのか!? これじゃあ村を出るって決意が……
続く
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