「うおりゃあああああああああああああ!!」
俺は芸もなく正面から殴りかかってきた雑魚を、バズーカでぶん殴る。カウンターの要領で繰り出されたそれは、手下その得物と一緒に前歯を折り、どこか遠く へ吹っ飛ばした。
その間も、数え切れないほどの雑魚が襲い掛かってくる。都合上俺の敵は木刀だ。
レンガは味方だから、殺しちゃいけない。めんどくせぇなぁ…。
レンガを殺すのはナオの役目だから…そちらに任せる。
「ぐぁ…」
俺の隣で木刀と戦っていたレンガが、苦しそうなうめき声を出して倒れる。その額には黒く血を吸った手裏剣が生えていた。
負けてたまるか…俺は左手で作り出したボムを敵陣に放り込む。威力はナオにダメージがないくらいに手加減しておいた。
「ギャアアアアアア!」
突然地面から上がった爆炎に、直撃した数人が踊り狂う。薄暗かった通りが一気に明るくなった。
今度はナオが、両手で手裏剣を投げ、こちらのレンガ数人をしとめる。
狙いは百発百中…手裏剣は全て、レンガの眉間へと突き刺さった。それにしても容赦ないな…下手したら死ぬぞこれ…。そのとき俺の向けても何かが高速で飛ん でくる。
訂正しよう。ナオも投げ損じることがあるみたいだな。で、何で俺の顔面狙って飛ばしてくるかは知らないが。もちろん俺も当たってやるほど優しくないから、 バズーカで弾く。
「ぐあああ…」
あ…俺の隣にいたレンガに刺さっちまった。まぁ別に数が減ればそれでいいけどな。
あーもうややこしい。俺は目に入ったやつを片っ端からなぎ倒しながら、ナオの話を思い出していた。

いい考えがあるんだ…。
そう言ってナオに耳打ちされた作戦は最高で、ある意味最悪だった。
ナオは俺とシュウなら絶対やれる。あとは上手くやれよ…とだけ言って、顔を皮のマスクで覆った。
顔を知られるのが嫌らしい。俺だってあんなやつらににらまれるは嫌だが、マスクしたって頭のこれで覚えられちまう…だから顔も隠さないことにした。
作戦は単純だった。ナオの言い方で言うならこうである。
「見ての通り、あいつらは結構大勢いる。そして俺たちはたった二人…まず普通なら勝ち目はない。だがやつらは今、交戦中だ。しかも怒りで前が見えなくなっ てる…そこに付け込む」
俺はこの時点で、二階から爆弾投下するつもりだったから、かなり拍子抜けした。
「別に弱みに付け込まなくたって、二人で全員やれるさ」
事実、俺だけでもやれると思った。だって俺らはあいつらの頭の上から狙い撃ちするだけだぜ?
だが、ナオのヤツはそれをきっぱりと否定する。
「雑魚だけならやれるが、俺らが雑魚にとらわれてるうちにボスにやられるかもしれない」
あのグラサンたち、そんなに強そうに見えないんだが……ナオが言うくらいだからそれなりなんだろう。俺は黙って話を聞くことにする。
「じゃ、気を取り直して…俺の調べ、といってもこのあたりのやつらにはもう知れ渡ってることだが、ヤクザたちは拳銃派と刀派に分かれてケンカしてる。つま り拳銃と刀派敵同士って訳だ。だから、黙って立ってあいつらは少なくなってくはずなんだが、何分弱い。雑魚同士じゃなかなか決着がつかないんだ。オマケに ボスは高みの見物ときてる」
何を言わんとしてるのかは大体読めてきた。つまり、圧倒的な戦力が要るってことだろ?
ナオは更に続ける。
「そこで俺たちの出番だ。まず俺が、刀組のやつらを一匹倒す。それと同時にシュウも雑魚を一匹倒す。そしてこう言うんだ。『こんな雑魚より俺たちの力を借 りないか? 絶対あんたの力になる』ってな。あいつら単純だから、絶対信用して登用してくれるはずだ」
なるほど、それにしてもナオのヤツ…これをこの短期間で考えたのか? 確かにいたずらの言い訳は俺より上手かったけど…。
「それで?」
「あとはお互いに、手下どもを一掃する。そしたら最後にボスだけが残るはずだ。そこで、ボス同士のバトルになったらこっちのもんだ。お前はボスの頭に銃を 突きつける、俺は手裏剣を首筋に当てる…で、ジエンドだ」
ナオの言葉はここまでだ。あとは俺たちの力量次第といって、飛び出していった。
そして…作戦通りにことが進んで、今では手下の数も三分の一になったってところだ。
レンガのやつの9割が手裏剣、木刀の9割が殴打、もしくは爆発で倒れていた。つまりはほとんど全部俺とナオがやったわけだ。さすがのボスも俺たちの強さに 驚いてるみたいで、何度か話しかけてきたりもした。
「お前、なかなかやるな。さっきから殴ってばっかだが、チャカは使わんのか?」
チャカってのは恐らく銃のことだろう。ちなみに俺は拳銃派のほうについていた。
俺は、そっけなく答える。
「こんなやつらに使う銃弾が持ったいないっすよ。それよりもボスの銃撃が見たいな」
「俺の銃弾も雑魚には使えんのじゃ。あそこの日本刀だけに使うと決めてる」
だったら子分に戦わせないでサシでやれよ! そう思ったけど、ここは言葉を飲み込む。
いよいよ、子分たちの数が両手の指で収まるほどになったからだ。
「おりゃ!」
「…!」
俺とナオはほぼ同時に、お互いの”敵”目掛けて得物を投げる。ナオの手裏剣はレンガの眉間をやすやすと食い破り、俺のボムは敵の中心ので大爆発した。
残るは俺、ナオ、日本刀、拳銃の4人だけである。
いよいよか…。
「おい、トンガリ。あの日本刀はワシがやる…退いてろ」
「……!」
あまりの驚きに声にも出せなかった。ついさっきまで薄弱だった拳銃の気配が、吐き気を催すほどに強くなったのだ。気配というよりも、殺気といったほうがい いかもしれない…とにかく、逆らったら殺される…そういった類の何かを感じた。
どうやらナオも同じだったらしく、異様なオーラをまとった日本刀が一歩、また一歩と歩みを進めていく。
縮まる距離、高鳴る鼓動…噴出す汗。
さっきナオが言ってた「あの二人は違う」というのは本当だった。だが、それは俺たちの予想の範疇をはるかに超えていて、隙を見て…なんてことは到底無理に 感じた。
実力が違いすぎる。俺はまだ、あの銃が火を吹くところなんて一回も見てないのに…それがわかってしまった俺が悔しかった。俺は思わずじりじりと後ずさりを した。
「トンガリ。お前、あの忍を知っているか?」
それは多分ナオのことだ。俺は、汗を垂れ流しながら嘘をつく。
「し、知らない…」
拳銃のほうは俺のことを一瞬睨んだあと、すぐに向き直ってこう言った。
「ふむ、まぁいい…お前はなかなか見所がある。…そうだな、あの忍を倒せたら、俺の組に入らないか? 総出で歓迎するぞ」
ナオと戦えといってるのか? 戦わないと…どうなるかは、グラサンに隠された瞳が雄弁に語ってるに違いない。
「お前も殺す」と
続く
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