狭い部屋の中での会話…目が開いているのは俺とナオだけだった。
グミたちはぐっすりと眠ってしまっている…が、それが問題なのだった。
「まさか…泊めてくれないのか?」
俺の問いに、ナオは目を瞑って首を横に振る。
「泊めないわけじゃないが…見ての通り俺は一人暮らしで、必要最小限のもの、必要最小限のスペースの部屋しかない。ベッドでは黒髪の子がぐっすりだし、揺 り椅子も長髪の女が占領してる。念のためにひとつだけ寝袋があるが……四人だと一人足りない」
言われなくてもそうだ。しかもついでに言うなら、ナオはこの家の持ち主な訳で……このままだと俺は寝る場所がない。
「だから…シュウ、悪いけど…」
「ちょっと待った!」
俺はちょっと待ったを使い、ナオが口に出そうとしたであろう…野宿という言葉を飲み込ませる。
この盗賊街カニングで、野宿なんてできるはずがない。しかももう季節が季節だけあって、かなり寒い。
どう考えてもそれだけは勘弁だった。すでに寝袋を用意していたナオは、面倒くさそうにこちらを向く。
「なんだよ…」
何だって言われても…野宿はいやだって言ってもだめなんだろうな。ここは違う作戦で行こう。
「大丈夫だとは思うが、お前がこいつらの子と襲うかもしれないし…。もう外は結構寒いし…俺、立って寝るからここにいちゃだめか?」
ちなみに襲った場合、ナオの命はユアによって絶たれるだろう。形がなくなるまで殴られて…これ以上は考えるのやめよう。ナオは俺の質問に対して、特に面白 くもなさそうに答える。
「そこまで飢えちゃいないよ。それより普通に寝てても寝相最悪なお前が立って寝れるのか? 無理だろ」
うわぁ…こいつ昔から全然性格変わってない。駄目なことは駄目、無理なことは無理。しかも俺のことを小さいころから知ってるからタチが悪い。
きっと相手が、知らないやつだったら俺のことを信用して……知らない人間は知らない人間を家に泊めたりしないか。
とりあえず、このままナオのペースだとまずい。何か打開策を…
「そ、そうだ。ほら、何か屋根裏とか…もうクローゼットでもいいや。なんかないか?」
「上の階は誰か住んでるよ。ここ、ビル型のアパートだから。下にも住んでるし…クローゼットなら空いてるが…お前、ドラ○もんか?」
ドラ○もん呼ばわりされたのは少し腹が立ったが、外で寝るよりはましだ。俺は人一人は入れるくらいのクローゼットの前に行き、取ってに手をやる。
「あ、確かその中には…」
ナオが何か言ってるのが聞こえたが、俺の手はもう止まらない。両手でクローゼットを開けると、その中には黒や銀の物体が山ほど入っていて、しかもそれがい きなり開放されたものだから、中身は俺のほうへとなだれとなって襲い掛かってきた。
「うわっ!」
俺は頭で考える前に、一歩バックステップし、そのおかげで難を逃れることができた。
俺はさっきまで俺がいたところに突き刺さった金属の欠片のようなものを見て、ナオにキレる。
「何だよあのトラップは!? 危うく死ぬとこだったろ!」
ナオは、
「トラップじゃなくて、俺が壊しちまった手裏剣の残骸だよ。そのままにしとくと危ないから、クローゼットの隙間から一枚一枚入れてたんだが…そこまでた まってるとは思わなかった。マジでごめん」
と、頭を下げる。別に悪気があったわけじゃないみたいだな…。ナオとは昔は色々つるんでバカやったけど、人を傷つけえるようなことはしなかったし。
俺はナオの言ってた隙間を探して、クローゼットを見るがどこにも隙間らしい隙間はなかった。
ナオはその間にも手を切らないための手袋をはめ、先っぽの欠けた手裏剣を拾い上げる。
「いつもこうやってやるんだ」
ナオは手首のスナップを利かせ、クローゼットに向かって手裏剣を投げる。すると、手裏剣は扉に突き刺さることなく扉をすり抜けていった。よく見ると、換気 用に細い隙間がある。
ナオが投げる手裏剣の残骸は、次々と穴へ吸い込まれていき、あっという間になくなった。
ナオは、手では拾いきれない金属片をゴミ箱に捨て、呟く。
「クローゼットもだめだから、シュウ…悪いけど…あ! お前、自分の家で寝ればいいんじゃん!」
「あ…」
それだよ! 何で今までわかんなかったんだ…。俺の家ならここから徒歩10分、変なやつらに会わずに通り抜けられるだろう。そうとわかれば、さっさと帰ろ う。
「ナオ、くれぐれも気をつけろよ。じゃ、俺はひとっ走りで家に帰るから。明日の朝には迎えに来る…じゃ」
「ん、ああ。その前にあれ…なんか引っかかってることがあったんだが…なんだっけな」
何で帰る間際にそんなこと言い始めるんだ。俺はナオが何か言ってるのを軽く流し、ドアノブを回す。
ナオはまだ考えてるようだが、もういいや。さっさと帰ろう。
俺は重い金属製のドアを開く。
「オラアアアアアアアアアアアア!!!!!」
「殺すぞワレぇええええええええ!!」
ドカーン、バキューン、ズキューン…
部屋を出たと同時に響きわたる銃声、凄まじい叫び声。俺は2階のフェンスから、身を乗り出してとても深夜とは思えない光景を眺める。
パンチパーマのグラサンや、凄まじいメンチをきりながら木刀で戦ってるヤツ。中には拳銃、バット、レンガ…もうわけわかんないことになってる…。ついこの 間まで、こんなことなかったぞ!
「何だてめえ…高みの見物決め込んでじゃねえ!」
「やばい!」
俺に向けて放たれる怒声&数十発の銃弾。ちょっと目が合っただけでこれってどういう扱いだ!?
俺は命からがらナオの部屋に舞い戻る。その刹那、厚い金属製のドアに何十発かの銃弾が突き刺さった。扉には逆さ文字で「コ ロ ス」と書いてある。
俺は肩で息をしながら、
「もうちょっとで死ぬとこだっただろ!! なんなんだ、あの危険で怖いお兄さんたちはよ!?」
と言う。ナオは冷静に答える。
「何かここ一週間前くらいからドンパチやってるんだが、なんだっけ…確かショーワとか言う町から来たヤクザらしい。これじゃ、家に帰るの無理だなぁ…」
何でこう平然としてるんだ…。親友の俺が大ピンチなのに…
「もっと先に言えよ! お前もしかして、俺のこと殺そうとしてないか…手裏剣といい、クローゼットといい、ヤクザといい…」
「いや、それは誤解だけどよ…とりあえずお前どうするんだよ」
どうするってこっちが聞きてぇよ…部屋から出て野宿どころか、部屋からすらも出られないんじゃ…かといってこの部屋じゃ寝る場所ないし。
チクショウ…これもあのヤクザどものせいだ…あいつらさえいなければ。
「あ!」
思いがけず口に出して言う。いいこと思いついたぜ…。
「なぁ、ナオ。あいつらにはカニングのみんなも迷惑してるよな?」
俺はナオに問いかける。
「してるしてる。もともとかなり危険な町なのにさ…あいつらのせいで危険度二割増しだよ」
よしきた。というか迷惑してないて言うやつがいたら逆に見てみたい。俺はついさっき思いついた計画をナオに告げる。
「じゃあ、あいつらぶっ殺しても大丈夫だよな。いや、殺人じゃなくて追い出すって意味でさ」
一時の静寂。ナオは、俺のことを計るように言う。
「お前一人でか? バットやレンガは別として、日本刀と拳銃は雑魚とは一味違う…手錬れだ。やれるのか?」
やれるかどうかなんてわからないが、新しいスキルも試してみたいし、第一やらないと寝る場所ないし…他に選択肢はない。
「やれるかじゃなくて、やる」
ナオは俺の言った事を聞いて吹き出す。
「お前何も変わってないな。俺もお前が大暴れするところ、久々に見たくなったよ」
ナオはそう言い終えると、頭に黒い頭巾を巻き、愛用の夜色の篭手をつけた。
「俺も、あいつらには迷惑してたんだ。寝る前にひと暴れしようぜ!」
続く
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