グミたちが痴話げんかしているうちにすっかり暗くなってしまったが、ようやく目的の武器
屋に辿り着いた。目的といえども、戦利品の売却…あわよくば装備もと言った程度だが。
ふと店の看板を見る。閉店時間はとっくに過ぎており、ドアには『CLOSE』の札が下がっていた。
グミは残念そうに引き返そうとするが、シュウがとった行動はどう考えても常識を逸した行動だった。
「おら!」
シュウの放った蹴りは、激しい音を立てて、ドアが内側へと無理ありこじ開ける。すさまじい破砕音がしたから、鍵かなんかがぶっ壊れたかもしれない。けれど
もシュウはおかまいなしに、店の中へと入っていった。眼帯に無精髭の男が不機嫌そうにつぶやいた。
「おいおい、こんな時間に誰だ。店はもう閉店……ん!?」
店主はシュウを見て、目を輝かせた。どうやら知り合いらしい。
「よう、久しぶりだな!」
シュウも店長のそれに対して、いつものことという感じで挨拶する。
グミとユアは急展開に戸惑いながらも、店の中にゆっくりと入っていった。その様子を見た店長は、シュウをからかう。
「おい、あの子たちはお前の連れか? どこをどうやったらお前にあんな上玉が付くんだ」
我もまったくを持って同意見だったが、ことの成り行きを知ってるために口出しできなかった。
特にグミは普通じゃないが、普通だとして……ユアとの出会いはなかなか衝撃だったからな。
シュウは、得意そうに言った。
「どうしてってなんだよ。俺くらいになると、見えないオーラに引き寄せられてこういうことになるんだよ。なぁ、二人とも」
あまりに調子に乗った発言にグミは呆れ、ユアは冷静に
「いや、多分違うと思いますけど」
と返す。店主に嘘がばれないわけはなかった。
「明らかに違うみたいだな。それで、ドア蹴破って入ってきたからにはなんか用があるんだろうな」
ほらな。店主は挑発するような目つきで、問うた。
ユアがずーっと肩からかけていたかばん…パンパンに膨れ上がっていて、かばんといえるかどうかわからないがそれを、どさっとカウンターに置く。
「あの、これを売りたいんですけど」
そう言って、かばんのふたを開ける。中に何が入ってるかというと…モンスターの残骸と少しの宝石だけだ。こういうことが初めてではないであろう店主でさえ
も、あまりの量に唖然とする。
「おい、これ…相当重かっただろう。いつ頃から溜め込んでたんだ?」
店主は驚きつつも、中にはいいっているものを分類し、それぞれを量りながら質問した。
ユアは、
「えっと…確か、今日のお昼頃におしゃべりしながら狩ってたんですけど…。そう、そこにたってるグミさんと二人で」
「そうそう」
流石の店長も、量っていたオクトパスの足を取り落として驚く。
「あんたら、見かけによらず強いんだな…この数じゃあの廃墟のモンスター全滅させたんじゃないのか? シュウにくっつくだけあって変わってるな…」
グミは最初こそ何も言わなかったものの、今度は強く否定した。
「私たちがくっついたんじゃなくて、こいつがおなかすかして倒れてたから、雇ってやったんです!」
それを聞いたとたん店長は、
「アハハハハハハハハ! そいつは愉快だな」
と高笑いする。少しはシュウの立場も考えてやれよ…。
かなり苦い表情をしたシュウは、否定はせずに話をそらす。
「そんなことより、戦利品はいくらになったんだよ…」
膨大な量の戦利品を量り終った店長は、目にも止まらぬ速度で電卓を叩く。
「あー木の枝や鉱物は俺が加工して使うが、他のものはゲテモノ屋にでも売るとして……ああ、宝石も結構あったから……。しめて25kだな。こんなに戦利品
を売りに来たやつは今まで初めてだ……今日の売り上げとそう変わらんじゃねえか。ブツブツ…」
店主はぶつぶつと愚痴などをこぼしながらも、ピンと伸びたメル紙幣をきっちり25枚手渡した。
「ありがとうございます」
ユアは礼儀よくお辞儀し、お金を受け取った。そしてそれを財布担当のグミに手渡す。
グミは抜け目なく、紙幣を一枚一枚確認した。全部数え終わった後の表情からして、全額あったらしい。
「これで、今夜おいしいもの食べれるね!」
グミはそう言うと満面の笑みを浮かべた。それと同時にぐ〜と気の抜けた音が聞こえる。
思わず3人は顔を合わせ、堰を切ったように笑いだした。
「よし、俺のイチオシの店に行こうぜ! あそこの飯は格別でよ」
とシュウ。もちろん女二人は賛成だった。が、全然関係ない店長が、慌てて言った。
「お、おいちょっと待てよ! 飯の前に武器屋に来たんだからなんかあるんだろ!?」
「いや、ねえよ。腹減ったし」
そっけなくシュウが言う。
「なんかってなに?」
今度はグミだ。質問の意図に全く気づかないとは…店主が少し哀れに見える。
「せっかく来たんだから、武具買っていってくれよ。臨時収入も入ったんだし…。売り上げ全部持ってかれたんじゃ、怒られちまうんだ。な、頼む! 安くしと
くから」
店主は立場も忘れて必死に哀願する。どうやら相当怖い妻がいるようだ……。
シュウはう〜んと唸り、グミは店長の様子を見て複雑そうな顔をしていた。
しばらく沈黙があったが、最初にグミが口を開く。
「…あの事件のせいでユアさんの装備が買えなかったから、ここで買おっか。ユアさんのおかげでこんなにお金もらえたんだし」
「そうしましょうか」
シュウは嫌そうな顔をしていたが、二人の視線に負けてすぐに降参した。
「だーわかったよ。その代わり店長、激安にしてくれよ!」
「そうこなくっちゃな! よし、お前らだけ出血大サービス。赤字覚悟で売ってやるよ!」
赤字になったらまた怒られるんじゃないのか…。売り上げがごまかせればそれでいいのかもしれないが。
なんにせよユアの装備が手に入るのは大賛成だし、おまけに激安だ。ここを逃す馬鹿はいないだろう。
「とりあえず、お前ら全員に合った装備を持ってくるから、ちょっと待っててくれ。頼むからか帰んなよ」
そう言って、店主は店の奥に引っ込んだ。がさごそと何かをあさる音が聞こえる。
ここなら、我が話しても聞こえないだろう。さっきからずっと思っていたことを口にする最後のチャンスだ。我は声のボリュームを下げて、グミだけに囁く。
「グミ、さっきから思ってたんだが…」
「なに?」
「ここってカニングシティーだよな。だったら盗賊の装備しか扱ってないと思うんだが…」
「え!?」
言葉の意味を解したグミが、思わず言った。……つくづく思う。何て心配なやつら…いやギルドなんだ。
続く