「よく帰ってこれたな。やつら結構凶暴だったろ」
淡々という…このひと私を評価してくれてるのか、殺したいのか…
「行く途中で変なカタツムリに襲われるし、メイプルキノコ3匹に囲まれるし…しかも一匹だけやたら強くて…はっきり言って今生きてここに立ってること自 体、奇跡ですよ。まったく…」
「まぁそう怒るな。で、証拠の傘は?」
いたわりの言葉とかかける人じゃ無いのは分かってるけどすこしくらい休ませてくれてもいいのに…こっちはまだMP回復しきってもいないんだから。ポケット からキノコの傘を出す。
「確かに5匹やっつけたようだな…。ん…一個だけちょっと欠けてるな…」
そういえば一口かじったんだっけ…ばれるとちょっと恥ずかしいので慌てて遮る。
「そんなことどうでもいいじゃないですか! それよりこれで合格なんですか?」
「ん…とりあえず合格だ。こんだけ闘えれば十分だろう…あと俺の言うこともちゃんと聞くようにな。苦かったろ」
意地悪そうに笑う。…完全にバレてる…
「…あの、合格したら何かもらえるんですか?」
話題を変えるために言っただけ。もらえるなんて期待してません
「ん…欲しいのか? なら今度の誕生日にでも俺の使っていた相棒とも呼べる武器をお前にやろう。合格兼卒業祝いだ」
ホントにもらえるとは…って卒業?
「卒業って…どういう意味ですか…」
まさかとは思うけど…
「これでお前も十分一人前ということだ。俺から教えるべきことはもう無い」
やっぱり…
「分かりました…今までどうもありがとうございました!」
精一杯礼をする。
「礼には及ばん…戦士として最後に仕事が出来ただけでも嬉しいもんだ。それよりも、もうシゲじいとの訓練の時間だぞ」
え…・時計を見る。なっ!?
「うわ…10分も過ぎてる!? 走っていかなきゃ…」
慌てて走り去ろうとする…・がその前に、言うことがある。言わなきゃいけないと思う。
「至らない弟子だったかも知れませんが今まで本当にありがとうございました!!!」
ありったけの声で言う。厳しかったけど私みたいな普通の女の子が強くなれたのは、全部この人のおかげなんだからコレくらいしたって罰当らないよね。
「近所迷惑だろうが…ほらさっさと行ってこい!」
少し照れてるようだった…素直じゃないねぇ…
*
「ゴメンナサイ! 戦士の最終試験で遅れましたっ…」
走ってきたので息を切らしながらも一息で言う。
「グミちゃんが遅れたのはコレが初めてじゃ無いからのぉ…待つことには慣れとるよ」
そんなこと今更言わなくてもいいのに…
「そうか…あのポーラが最終試験か…ところでグミちゃん今何歳かな?」
そういうあんたは何歳なんだ…ん? ポーラ? たしか師匠の名前ってポールじゃ…
「15歳です。来月に16になります…というかポーラって誰ですか? 師匠の名前はポールじゃ…」
シゲじいはにっこり笑う。
「あやつは自分の名前が嫌いで、いつも人に「ポール」と呼ばせているがの、本名はポーラじゃ!【粉微塵のポーラ】といって結構有名じゃったよ…それにして ももう16か…つい昨日まで7つだと思ってたんじゃが…」
なるほど…師匠の本名はポーラか…。というかそんな異名を貰うほどの戦士だとは全然知らなかった…。
「ポーラは強かった。目玉マークのついていたでかいハンマーを持っていたときが全盛期じゃったな。ゴーレムが粉になるまでタコ殴ったということでその異名 がついたんじゃよ。そのあとは奇妙な鉄球つきのメイスを装備してたがの…」
老人は昔のことは良く覚えてるものなのね…それにしても師匠の相棒ってまさかそのハンマーじゃ無いだろうな…やだなぁ…。そこでさっき年齢を聞かれたこと 思い出す。
「そういえばさっきどうして私の歳を聞いたんです? 何か関係あるんですか?」
「む…もしや知らんのか? 村で生まれたものは誰でも…って違う村から来たんじゃっけな」
遠い過去の話だけど今でも鮮明に覚えてる。死に掛けたことも、最後まで笑ってたママの顔も、復讐を誓ったことも…
「この村では16から村を出て大陸に行くことを許可される。というか半ば強制的に村を追われるのじゃ…この村に若い者がいないのはそのためで、今いるわし やポーラ…防具屋のおばちゃんやゼフも昔はみな大陸で馴らしたもんじゃ。つまりここは始まりと終わりの村。。ここから出て、いつかはここに戻る…それは引 退する時になるがの…」
しみじみと呟く…。
 私はいつかはこの村を出て復讐を果たすと決めていたつもりだったけど、それは遠い話だとばかり思っていた。
でも実際はあとひと月で大好きなみんなと別れて、大陸に行かなくてはいけないのだ。
10年以上も世話してくれたゼフおじさん、魔法の特訓をしてくれたシゲじい、厳しかった師匠…今となってはどれも捨てることの出来ない大切なものだった。 失いたくはない、だけど…
「しょぼくれている場合ではないぞ! これから最終試験を言い渡す!楽なものではないぞ」
急に厳しい口調になる。こんなシゲじいは初めて見た…
「何か得意な呪文があるじゃろう…それをわしの前に出してみよ!」
異常なほどに迫力がある。この爺さん…只者ではない(ぇ
「得意な呪文…マジックガードとヒールしか使えないのですが…」
恥ずかしい話だけど、私は未だその二つの呪文しか使えない。シゲじいは知ってる限りの呪文を私に教えてくれたけど(と言ってもほとんど氷魔の呪文だけど) どれひとつ満足に出すことは出来なかった。最も初歩のエネルギーボルトすら出せないのだ。だけどシゲじいはいつもこう言っていた。
『わしには魔力が高まるのを見ることが出来る。いまグミちゃんが呪文を唱えようとした時、エネルギーボルトどころかコールドビームすら出せそうな程の高ま りじゃった。出ないのが不思議なくらいじゃ』
いったいどういうことなのだろう…もしかして優しい私は人を傷つける呪文なんて使えないのかも…でもメイスで普通に殴ってるじゃん…
「(ヒールをもマスターしたのか)ならばマジックガードを使いなさい。それをわしが試す!」
試すってコトはもしかして…
「マジックガード!!!」
全身を淡い光が包み込む…回を追うごとに範囲は広く、防御力は高く、消耗も少なくなってきている。今では5分以上も出せるほどだ。ふふん…コレなら一発合 格だろう。
「いくぞぃ…! エネルギーボルト!」
シゲじいの古ぼけた杖から握りこぶし大の青い球体がこちらめがけて飛んでくる…!! コレが最終試験ってコトか…・
「ガリガリガリガリ………」
シールドが削られていくのが分かる…この盾は私のMPによって支えられているので、攻撃を受けた場合、そのままMPが削られるのだ。…それにしてもすご い…メイプルキノコの比じゃ無いっ…。
「もう一発いくぞ! エネルギーボルト!」
またもや青い球体がこちらめがけて飛んでくる!!
ガガガガガガガガガ……
削る音がさっきよりも大きくなる…。私のMPはどんどん削られていく。エネルギーボルトでこれほどとは、ほかの呪文ではどれほどの威力を持つのだろうか?
「ほう…2発で限界だと思ったんじゃが…我が弟子にふさわしい成長ぶりじゃ! 最後の一発いくぞい!」
まだやるの?
「エネルギーボルト!!!!」
なっ!? …でかい! …さっきのは本気じゃなかったのか!? あんなのが当ったら大の大人でも吹き飛んじゃうよ…ましてや私なんて下手したら死ぬかも…
ガリガリガリガリガリガリ!!!!!!!
  くっ…重い…MPの消耗が激しい。このままじゃあと10秒ももたない…!!
都合上3つになったエネルギーボルトは貪欲に私の盾を削り取っていく…シゲじいが出した青い球はまだひとつたりとも消えることなく盾に噛み付いている。
(もう限界が近い…どうにかこの状況を打破するには…)
1.攻撃呪文で相殺する…私は攻撃呪文は使えないんだった。
2.このまま消えるのを待つ…そんなにもたないわ。
3.避ける…それじゃ合格できない…どうすればいい…どうすればいいのよ…?
ふとメイプルキノコとの死闘が頭によぎる…そういえば、あのとき3匹のメイプルキノコを弾き飛ばしたっけ…あのときは普段以上にMPをつかったから…そ、 それだ!
「はぁぁぁぁぁああああ!!!」
声を出して自分に気合を入れる! 魔力を集中してエネルギーボルトは弾き飛ばすのだ。シールドに対してさらに魔力を込める!!
「ああああああぁぁぁぁああ!!!」
少しだけエネルギーボルトの力が弱まった気がする。でもMPも残り少ない…残った全てのMPをシールドに送り込む!!!そのとき首元に光るロザリオが光り 輝いた気がした。
「ガシャーン!!」
青い球体は私の盾に弾かれ山の方に吹き飛んでいった。木々がなぎ倒され、山が抉れ砂煙が上がる。
「なんとまぁ信じられん…マジックシールドだけではなく、リフレクターまでも習得するとは…さすが我が弟子…文句なしの合格じゃ!」
シゲじいが杖を振り上げ私を祝福してくれているようだったが、私の耳にはほとんど何も届いてはいなかった。MPを使い切り、私はその場に倒れてしまったみ たいだ。どうしてあんなすごい芸当が出来たのかは自分でも分からない…でもMPはからっぽ、体はぐったりだけど…なんだかとても充実感があった。魔法、武 術ともに試験にパスしたのだからそれも当然のことかもしれない。
続く
第1章最終話(? ぐみ1に戻る