「…何の音?」
私は聞きなれない音で目を覚ました。時刻はまだ真夜中、いったいこんなに遅 くに何をしてるのか気になったけど…私はまぶたの重みに耐え切れずまたまぶたを閉じようとした。
「ギャァァァァァァ!!」絶叫。
私はベットから飛び上がるように窓の外を見た。
「そんな…村が…燃えてる」
村が燃えている…そんなこと信じられるわけなかった…。でも現実に村か らは真っ赤な炎が猛り狂っている。「ギャァァァァ!」また絶叫。
何が起きてるのか全く理解できなかった私は部屋から出て辺りを確認する。
 「そんな…おじさん…おにいちゃん…」
親切だった村人達の屍が辺りに散乱していた…。あるものは首がなかったり、 またあるものは胸を貫かれていたりと見るも無残な凄まじさだった。私は大事な人を失った悲しみよりも、あまりの凄惨さに吐き気がこみ上げてきた。
いったい どうしてこんなことになってしまったんだろう…わたしは夕ご飯全部吐き戻してしまった。胃液の酸っぱさにむせて涙が出た。そのとき…私は何か 大きなものに抱きかかえられ宙に浮いた。私はパニック状態に陥って足をばたつかせたが聞き慣れた声がした。
 「グミ! 落ち着きなさい! ママよ」
抱きかかえたのはママだった。私はてっきり村をこんなにしたモンスターか何かだと思っていたから安心してどっと涙があふれてきた。
「ママ…よかった。村の人みたいになっちゃったかとおもった…ううっうぇん」後のほうは声にならなかったけど抱かれたままママは私に何か語りかけて くれた。
「いい…? グミ、よく聞くのよ。あなたが寝静まってから少ししたときだったわ。そいつは突然やってきたの。それは…」
「ぐあああッ!」誰かがうめき声をあげた。聞き覚えのある声
「パパ!」ママが叫ぶ。そう…今の声はパパの声だった。何かに襲われたみたいだった。それでもパパは手に持った長い剣を振り上げ、何かに叩きつけるよう にして振りかぶる。
「パパは大丈夫よ…よく聞きなさい。パパが今命賭けで戦ってるのは『双頭のドラゴン』よ。あんな高レベルな魔物がこの辺りにいるなんて信じられないけ ど…・とにかく村を襲ってるの。でもパパは村一番の戦士だからきっと大丈夫よ」
私はパパのことが大好きだったし、とっても強くてかっこいいから負けるわけないと思ってた。パパは剣を両手に持ったまま、体制を低くして頭が二つある大ト カゲに突進していく。大トカゲは辺りかまわず灼熱の火炎を吐くが、パパは流れるようにして身を捌き、すべての攻撃を避けていた。
「食らえッ!!」
パパが繰り出した高速の突きは、左の首の右目を正確に突き刺した。ドラゴンの鋼鉄の鱗でも、その目までは覆っていないらしく、痛みのためか小さく呻いた。
  私はそのときにパパの勝利を確信しきっていた。普通考えても目を貫かれて生きていられる魔物なんてそうはいないだろう。目の奥には脳があるからだ。さすが のドラゴンも脳がやられては助かるまい…
「うぐっ…」パパの声だ。
私は目を疑った…目を貫かれた龍は活動を止めるどころか、右の顔を歪めたのだった。私には笑ったようにしか見えなかった。
「お前……たち…早…く逃げ…ろ…」パパは口から血を流しながら切れ切れに言葉を紡いだ。
「あなた…そんな……」ママは大粒の涙を流している。
私には一瞬何が起こったのか理解できなかった。パパの背中から鋭い何かが生えてきたのだ。それは…龍の爪だった。私はその頃『死』というものを理解してい なかったけれど、ママが悲しんでるのを見て悲しくなった。
 パパを殺した龍は目標を変えてこちらを見ている。どうやら私とママが村人の最後の生き残りのようだった。ドラゴンは地面を揺らしながらこちらを見つめ近 寄ってくる。ママは私を抱えて逃げ出そうとしたが、足がすくんで転んでしまった。私はママの下敷きになって息が苦しかった。
「グミ…強く生きなさい…あなただけは私が守るから…」私の顔にあたたかいものが落ちる。
「グオオォォオォォ」龍はその鋭利な爪をママに向かって突き出した。ママの背中に爪が突き刺さる。ママは私の盾になってくれたのだった。
だけどママの願いは むなしく、龍の爪は私の体をも貫いていた…
続く
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