2/14…この日を俺は忘れない。というより忘れられない…。
2/14…我もこの日を忘れることができぬ。思い出すとあるはずのない背筋が凍りつく。
そして2/15…俺とレフェルはあることを計画した。事の発端はこうだ。
誰もが寝静まる夜中。俺は昏睡から何とか目覚め、グミを起こさないように同じく死んでたレフェルをたたき起こして無理やり今日食ったものに対して話をしよ うとまずは俺が切り出した。
「…なぁ昨日俺が食ったあれはいったい何なんだ? あれを食ってからたまに意識が途切れたり、手先が痙攣したり、食い物の味がわからなくなったりするんだ が」
嘘偽りはない。全部事実だ…ホントにあれはなんだったのか。レフェルはその事件自体に触れたくないのか、普段以上に口が重い。
「…あれは、表向きはチョコレートというお菓子だ。甘さと苦味が絶妙で結構旨い…はずだったのだが」
「あれって本来甘いのか!? 明らかに食ってはいけないものの味がしたぞ?」
「だから本来のチョコの話だ。我は材料を見たが……これは聞かないほうがいい。下手したらショック死するぞ」
…聞かないほうがいいって…想像するだけで逝くほどのものっていったい何なんだ!? トッピングにしちゃ変な色した物体がいろいろ飛び出てた気もしたが… まぁそれはいいか。
「…とにかくだ。何で俺があんなもの食わされたのかが疑問なんだが、レフェル…なんか知ってんだろ」
「言った気もするが…あれはバレンタインデーのプレゼントだ」
「はぁ? 何だ、その記念日は?」
「女の子が好きな人にチョコを送る日だ」
ん…今何て言った? 好きな人に毒物を渡すのがバレンタインデーなのか?
 …って好きな人なのか!
「表情がコロコロ変わるヤツだな。考え込んだり、怪訝そうな顔したり…ニヤけたり。好きって意味なら期待しない方がいいぞ。義理かも知れんからな」
義理であんなもの食わすのか! デンジャーだ…。
「…なんだかいろんな意味で納得いかないな…。そこで聞くが、バレンタインデーが女→男なら男→女の日はないのか?」
レフェルは少し黙ってから、
「某国のお菓子屋が作った勝手な記念日だが、あることはある。この場合はチョコではなくマシュマロやクッキーといったそういうお菓子を贈るらしい。で、な んでそんなに不敵な表情をしてるんだ」
「何でって決まってるだろ。やられたらやり返す…それが俺のやり方よ!」
「どうなっても知らんぞ…」
後悔なんてするはずない。そのときは確かにそう思った…。
*
3月某日。グミに酒を飲ませて眠らせた。…さてと…きたる3/14のためにとびっきりの材料をそろえに行くぞ。
既にゲテモノ屋の主人とは話をつけてある。クッキーとマシュマロの材料もばっちりだ!
「よし、レフェル…ゲテモノ屋に行くぞ」
「…本当に我は無関係だからな」
「何言ってんだよ。これは愛しいグミからもらったチョコのお返しを作ろうとしてるだけじゃないか。やましいことなど何一つないぞ」
「……」
俺は右手でレフェルを振り回しながら、ゲテモノ屋へと歩く。名前からして得体の知れない食材が売ってそうだ。
「ドン!」
俺はようやく着いた怪しげな店の扉を蹴り開け、店の中に入ろうとするが…うっ、何だこの臭いは。明らかに食えるものの臭いじゃない! 怪しげな店主が笑い ながら俺に話しかけてくる。
「おやおや…乱暴な客だね。どんな珍味を買いにきたんだい?」
「いや…前に来るって言っておいたシュウっていうんだが…とびきり怪しげなものを売ってくれ。毒とか死ぬヤツ以外で」
「ここに死ぬものなんてないよ。食べあわせが悪かったんじゃないかい? …まぁとりあえず、商品棚を見て決めてくれ」
店主は俺を引きつれ、棚にかかった白い布を外す。
「…!! なんだこれ!!」
棚に並ぶ怪しげな動物の皮膚やら羽やら…そのものやらetc…。 とにかくどう見ても食い物じゃないものが大量に並んでいた。鮮やかな緑に紫に赤…こんな 色、明らかに自然界に存在しないだろ。この中から選ぶのかよ! とりあえず俺は手近にあった緑の物体に手を伸ばす。店主は、
「お目が高いねぇ。それはカズアイの尻尾…血の滴る旨い肉さ。生で食うのがいいよ」
……ヤバイ。この店主キチガイだ。こんな、いぼつきの緑色の肉を生だって? あり得ないにもほどがあるぜ。
「店主。実はホワイト…げふん。お菓子に入れて一番いけそうなのはどれだ?」
「うちのモンがお菓子になるとは世界は広いねぇ。これなんてどうだい?」
店主が俺に渡したのは紫色の羽と瓶詰めされた蛙だった。これが入ったお菓子なんて想像もつかないが…まぁこれでいいか。
「じゃこれでいいや。いくらだ?」
「あんた面白いから100メルでいいよ。今後ともごひいきに頼むね」
俺は何が面白いのか知らないが、手持ちの10分の1のメルを手渡し、怪しげなものを受け取った。よし…これでグミに一泡吹かせてやれる。
*
3/13。グミが寝静まったのを見て、あらかじめ話を付けといた(ってか脅した)コック に俺の持ってきた食材(?)を使ってホワイトデーのお返しを作ってもらうことにした。どうやら既に出来上がったクッキー生地に、さっきの羽と蛙を粉々にし て混ぜるらしい…。おいしそうな黄色の生地に紫やら緑の物体が混入される。どうやらクッキーはあと焼けば完成らしい。
コックは手際よくクッキー状にした生地をオーブンの中に入れ、マシュマロにとりかかる。こちらもメレンゲにさっきのあれをぶち込んでよく混ぜ…うっ、もう だめだ。吐きそう…こんなものを平然と作ったグミには、ある意味敬意すら覚えるな…。
*
3/14。ついにリベンジのときがきた! 俺は朝一番にプレゼントを渡すために、コック に作らせたゲテモノ入りクッキーを可愛い袋に詰める。…準備万端、グミの寝室に乗り込むか。
「コンコン」
一応ノックする。いきなり入ったりしたらどんな目にあうやら…まぁ今日酷い目に遭うのはグミだけどな。
「どうぞー」
予想に反してグミからの返事がある。いつもこんな時間に起きてたっけか? それにノックしかしてないのにどうぞって…無防備すぎるぞ。
「ガチャ」
…カギまで開いてる! まぁいいか…入ろう。
「入るぞーー」
「入るな! ド変態!」
が、入った途端、質量のある物体が俺の顔めがけて飛んでくる。避け切れん!!
「グバッ!」
何かが頭に直撃した衝撃で、俺はドアの向こうまで吹き飛ばされる。さっきどうぞって言ったのは空耳だったのか?
その時俺の頭にぶつかった物体から声が聞こえた。
「シュウ、おはよう。いい朝だな」
…どこがいい朝なんだ。ものすごい勢いで出血したぞ
「…おはよう。話は変わるがな。さっきグミの部屋をノックしたとき、どうぞって言われたんだが…。なんで変態呼ばわりされた挙句、俺にレフェルが投げつけ られるわけ?」
「グミならまだ寝てるぞ」
寝言かよ! 何で寝言で会話成立してんだよ!
*
「え? シュウが私のために、何か作ってくれたの?」
「そうそう。バレンタインデーのお返しだよ」
この言葉が意味するものは察してくれ。もう少しで俺のリベンジが…!
「ありがとー。でも、なんで頭から血がだらだら流れてんの?」
全然気づいてないとかある意味才能だぞ…。強すぎ。
「男はこの時期になると興奮してこうなるんだ」
「変なのー。じゃこの袋開けていい?」
「あぁ開けてくれ。そして思う存分食ってくれ!」
グミは俺が許可する前から袋を開け始めていたが、そんなのは関係ない。さぁ…食え!
「何で食べるってことを強調してるの?」
やべ…怪しまれた。俺が言い訳を考えてると、グミは面倒そうに言った。
「まぁいいわ。いただきまーす」
グミは俺が作らせたゲテモノ入りのクッキーを手に持ち、色や得体の知れないものが飛び出してることを見てもためらいもせずに、口に運ぶ。あぁ…あとちょっ と…@数センチ…
「ぱくっ」
一口で来た!! これで今日一日は静かにあんなことやこんなことが出k…
「おいしいー」
は!? グミはクッキーを一口かじったあと、さらに一口、もう一口とクッキーを口に運ぶ。そんなバカな…
「シュウ…私がおいしいって言ったのに嬉しくて固まってんの?」
嬉しくてじゃないけど、固まってるのは確かだよ…もしかしてこのクッキー、ホントに美味いのか?
「なぁ、グミ。もっとなんか体がカーッと熱くなったり、舌がしびれたり、吐き気を催したりしないか?」
「しないけど…もしかして一枚ほしいの?」
グミが俺の目の前にクッキー(?)をちらつかせる。どうみてもクッキーじゃないが…。俺は、
「いやいい…ホワイトデーだから…それはグミが喜んでくれればいいんだから」
「ホントに美味しいのに。このマシュマロも食べるよ?」
そうだ! あのコックの野郎…クッキーに入れ忘れてマシュマロに全部入れたんだな!?
よーし…食え!! グミは手に2〜3個マシュマロを持ち、口に放り込む。
「こっちもおいしー」
そ…そんなバカな…。これは夢なのか? それともあのゲテモノ屋に変なもの掴まされたのか?
「ねぇ、シュウ。これも美味しいから食べてみなよ。一人で食べたら太っちゃうかもしれないし」
グミは紫色したマシュマロを俺につきつける。…すごい臭いだ…。
こう…にんにくとチーズを混ぜて納豆を和えたものを2年ほど常温で放置したような…
「はい。あーん」
あーん…ってうわあああああああああああああああああああああ!!! 食っちまった!!!!!!!
味も臭い通り…うっ!この腹の痛みは……
「それにしてもこれ不思議な味ねーこれがクッキーとかマシュマロって食べ物なの?」
食ったことなかったのか…腹の痛みをこらえながらそれだけ考える。こんなに即効性の毒を盛られたのは初めてか……。
「ぐるるるるるるるるるるる……」
俺の腹から、うめき声にも似た異様な音がした。マ ジ で ヤ バ イ!!
「グミ…ちょっとトイレに…・あああああああああああああああ!!」
その後俺は半日の間、個室に篭る事になった…。
ちなみにグミは何ともなかったどころか、ものすごく元気になったらしい。
レフェルは…想像に任せる。
いとふゆ