来たる2/14…我はその日の朝に冷蔵庫から出された。暗くて狭くて寒い所にいたせい
か、外の世界がやたら暖かく感じる。と言っても寒さなど感じないのだが。
「レフェルも少しは反省したようね。これからシュウとコウさんにチョコあげに行くから」
どうやらグミは朝一番でチョコを渡しに行くらしい。もう一つのチョコはシュウかコウの分だということか。
「おはようございます、グミさん。こんな朝早くから何か用ですか?」
「コウさん、おはよう。あげたいものがあるから、シュウと一緒に部屋で待ってて。すぐに行くから」
「わかりました。もしかしてバレンタインのあれかな…」
コウは嬉しそうにシュウがいる部屋へと歩いてゆく。コウはバレンタインを知っているようだ。多分シュウは知らないままだろう。
「じゃ行きますか! どきどきするなぁ…」
グミは左手に我と義理チョコ、右手に何だかよく分からない謎の包みを持って、二階のシュウが待っている部屋へと階段を上って行く。1段また1段…シュウか
コウが天国への階段を一段ずつ上らされていく…。見てて忍びないが止めることも出来まい。
「二人ともおはよー! 今日は何の日か知ってるよね?」
「バレンタインの誕生日だろ」とシュウ。何で誕生日になるんだ。クリスマスはクリスマスの誕生日か。
「バレンタインデーだよ。グミさんが僕らに何かを・・」
「はぁ? 何かって?」
「チョコかな」
「ピンポーン。昨日一日かけてチョコを用意しましたー」
「おおおぉーーー」
二人の歓声が起こる。これから待ち受ける恐怖も知らずに。
「はい! これまず、コウさんに…」
グミは綺麗に包装されたチョコの包みをコウに手渡す。義理はコウのほうか。
「ありがとう! あけていいかな?」
「ううん。後で食べてね」
コウはチョコをもらったのが初めてだとは思わないが、大事そうにポケットへとしまう。
「なぁ、グミ。俺のは?」
シュウは図々しく、真ん前でグミの顔を覗き込んでいる。いつの間に移動したのか…。
「ちょ…ちょっとあんまり近寄らないでよ! あんたの分ならちゃんと用意してるわよ。ほら…」
頬をほんのり染めたグミは、右手に持った包み(?)をシュウに手渡す。
「さんきゅ! …なんかこれ、コウのと大分違わなくないか?」
どう見たって違う。コウの包装紙に対し、こっちはただの藁半紙で包んだような代物だ。
「コウさんのに包装紙使っちゃったし、どうせあんたびりびりに破って捨てるんでしょ」
コウが勝ち誇ったようににやりと笑う。シュウは気づいてない。
「ふーん…まぁいいや。見かけより中身だよな」
「後から…あ」
グミが後から空けてと言おうとしたが時既に遅く、シュウは包みを開けていた。中から得体の知れない黒い物体が顔を覗かせる。
「へぇ…これがチョコって言うのか。何か色々飛び出してるけどこれは何だ…? 異様な匂いもするけど…」
チョコ(?)からはカエルの足やスティジの羽が飛び出していた。パッと見で食える代物ではない。
「もう…後で開けてって言おうと思ったのに…。もういいや、食べてみて」
シュウはチョコ(?)を掴んで、まじまじと眺めている。グミも食べる様子をじっと見ている。
「いただきまーす。パクッ……うっ…」
ご臨終か…。
「どきどき…味はどう?」
シュウはチョコ(?)を頬張りながら、不鮮明な声で答える。
「もぐもぐ…なんでいうが…不思議な味が…ずるっていうか…あまぐて、辛くで、いがくて…もぐもぐ…・うっ!」
シュウは一瞬嘔吐しそうになり、グミの視線に気づいて無理やりそれを飲み込む。
「シュウ…大丈夫?」
「…うまかったぜ」
その後シュウは痙攣して意識を失った。いくら強いシュウといえども…あれはまずいんじゃ…。コウは青ざめた顔でシュウを見ている。
「じゃグミさん、チョコありがとうございました。…では僕は急に用事を思い出したので・・」
逃げる気だな。まぁ当然といえば当然だ。我が同じ立場なら同じことをする。
「はーい。それじゃまたね」
コウは小走りで去っていった。義理チョコの方は大丈夫だと思うが、グミが改良を加えている可能性も…
グミはコウが去っていった後も満足そうに笑みを浮かべていた。
「気絶するほどおいしかったんだね。自分の分も作っておけばよかったぁ…」
いや作らなくてよかったと思うぞ。シュウを看病する人がいなくなる。
グミは、話す相手がいなくなったからか会話の矛先を我に向ける。
「そういえばレフェルさっきから黙ってるけど…どうしたの?」
「…いや! なんでもない!!!」
何故か本能的な危機を感じた。
「ははぁ…わかった。レフェルだけチョコもらえなくてひがんでるんでしょ。ちゃんとレフェルの分も用意してあるよ」
グミはポケットからさっきシュウに上げたのと同じモノのミニチュア版を取り出す。こんなときに限って、なんて準備周到さだ…。
「いや…我はいい!!ほらそれに我には口なんてないし…」
「遠慮しない遠慮しない」
グミは我の本体を外し、鎖を引っ張り出す。
「ほら、ここの龍の口に入れれば食べた気分にもなれるよね。じゃ入れるよー」
「わ…ちょっと待て! やめろ! やめてくれ!! 頼むから……ってあああああああああああああああああああ…」
「もう入れちゃった」
その後、我の意識は夜中まで戻らなかった。結局本命はどっちだったのか定かではないが、シュウにとっても我にとっても忘れられない日になったのは間違いあ
るまい
終