inカニングシティ
ここカニングシティは、雪も溶け、うららかな陽気に包まれて…はいない。
薄汚れた道路、そびえ立つ廃ビル群、そして人相の悪い男やいかにも盗賊な者…そう。ここは盗賊村なのだ。
なぜグミたちがこのような物騒なところにいるかというと、理由は深くたずねないで欲しい。全て成り行きなのだ。
そう、今回もまたグミの気まぐれから始まった。いい加減勘弁して欲しい。
*
3/3明朝。
「ねぇみんな早く起きて! 今日は特別な日なの」
朝っぱらからグミの大声で目が覚める。グミはいつもねぼすけで、大抵はシュウが最初に起きるのだが、今日はいつもとは違うようだ。シュウは寝起きが悪いほ うではないのか、起きたばかりだというのに冷静にグミに突っ込みを入れる。
「ふぁ〜あ…おはよう、グミ。今日は早起きだな。いつもは起こさない限り絶対起きないのに…。それと、自分で起きてくれたのはとっても嬉しいんだけどさ。 今まだ朝の4時だぞ」
まったく持って同感だ。間違いなくグミは遠足の前の日眠れなくて、当日寝坊するタイプだと思っていたが、案外そうではなかったらしい。
「だから今日は特別な日なの! 早くしないと夜になっちゃうから、さっさとカニングシティにいくわよ!」
「だから特別な日だってのは分かったけどさ。何でわざわざカニングまで行くんだよ。あそこにはなんもないし、盗賊ばっかりの物騒なところだぜ」
「もう、わかってないんだから…レフェル、3/3が何の日か説明してあげて」
何故我が…と思ったが口には出さない。下手に逆らっても良いことがあったためしはない。
「3/3か…確かひな祭り…別名桃の節供とも言うな。まぁようするに女の子の日だ」
グミは嬉しそうに笑って、こう言った。
「さっすがレフェル〜大正解! おめでとうーぱちぱちぱちー」
かなり盛大に祝ってくれてるつもりらしいが、なぜか素直に喜べなかった。シュウは既に二度寝体勢に入っている。
「なぁグミ、どうしてひな祭りは知ってるのに、バレンタインデーは知らないんだ?」
さっきまで天使のような笑顔を見せていたのに、それとはうってかわって険悪な表情になる。
「周りに私と同じくらいの男の子なんていなかったし、そんなこと誰も教えてくれなかったんだからしょうがないでしょ! それにひな祭りを知ってたのは、ゼ フおじさんが毎年3/3になるとひな人形飾ってくれたからよ。それとシュウ…おきろ!!」
グミはシュウのスネを思いっきり蹴る。
「いってえええええ!!!! な・・何も蹴らなくたっていいだろう。うわ血がにじんでるよ…」
「血ぐらいでわめかないでよ。ほらさっさと支度して、カニングに行くんだから」
シュウは文句をたらたら言いながら、グミに質問する。
「なぁ…そのひな祭りってどうしてカニングまでいく必要があるんだよ? あそこには本当に何もないぞ」
グミは、
「あのね、PT屋さんが言ってたんだけど、カニングシティのどこかに異国に連れて行ってくれるペリカンがいるんだって。そしてその異国にはおっきなひな人 形があるとかないとからしいの」
「それでそれを見に行こうって言うわけか…」
「そう!そのとおり!! 分かったらすぐ出発よ」
「いや…マジで行くのか?結構遠いぞ」
「ゴチャゴチャ言わないの! 今日は女の子の日なんだから、このPT唯一の女の子グミさんに従いなさい!」
グミがPT唯一の女の子だということは分かっているが、女の子の日でなくともシュウはほぼ100%従っている。
「ひな祭りって男が女の奴隷になる日だったのか…昔の人もずいぶん酷い日を考えやがったな」
どうやらシュウは思いっきり勘違いをしているようだが…まぁ仮に今日が5/5子供の日だったとしてもシュウはグミに引っ張りまわされるに違いないだろう。 かくしてグミ一行はカニングシティへと歩みを進めた。
*
「ここがカニングシティ? 汚い町ね…」
グミは町の入り口につくなり、辛らつな言葉で町事態を愚弄する。まぁ実際そうだから仕方ないのだが…。
「汚い町だが一応俺の故郷だ。いいとこだってあるさ。それとグミ、ここは物騒なやつが多いから俺から…っていないし!」
「シュウー早くこっち! こっち!」
グミはシュウの言葉など何一つ聞かずに町の奥のほうへと進んでいた。
「おい!だからそっちは危ないって…」
結果的にシュウの忠告は正しかった。なぜならグミは既に数人の悪人面に囲まれていたのだから。
「へっへっへよう嬢ちゃん。見ない顔だが、命が惜しかったら持ってるもの全部ここにおいてさっさとこの町から出て行くんだな。といっても、嬢ちゃんはかわ いいから逃がしたらしないけどな」
強面のリーダー格の男がグミに向かって最低な言葉を吐く。グミは怯える素振りもなく、
「ねぇおじさん。このあたりでおっきなペリカン見なかった? 私たちそれを探しにきたんだけど」
「ペリカンだぁ? そんなもんいるわけねぇだろ! それよりお前はさっさとこっちに…」
リーダー格の男はグミの手を無理矢理掴もうとしたが、グミは男が動くよりも先に男の背後に回っていた。
「知らないんじゃ用はないわ。それに私に乱暴しようとしてたみたいだから…」
「ゴンっ!」
あぁ…ありゃ頭蓋骨陥没は免れないな。あの男たちも弱いもの(グミは除く)に対して容赦がなかったが、グミは用がないものに残酷なほど容赦がなかった。取 り巻きの連中もリーダーが一撃で昇天したのを見て慌てて逃げ出す。
「ったく…ここはああいうやつらが多いから気をつけろって言おうとした矢先にコレだもんな。まぁ返り討ちにしたから良かったが…。とりあえず、こいつの 財布ゲットと」
いつの間にきたのか、シュウは倒れた男の上着の中から財布を取り出してポケットに突っ込んでいた。こいつも相当抜け目がない。
「ねぇ、シュウ。ペリカンってどこにいると思う?」
グミは唐突に質問する。
「意味のわかんない質問だな。…そうだな、鳥って言うぐらいだから…」
シュウは空を見上げ、何かを指差す。
「あっ…あれ! ペリカンじゃねぇの!!?」
「えっ?」
グミも慌ててシュウの指差すほうを見つめる。
「どこにペリカンなんているのよ! 太い鉄骨があるだけじゃない」
ちなみに我にも見えない。おそらくシュウの視力が桁外れなのか、幻覚を見たのだろう。我は後者を推す。
「見えないのかよ。心の汚いやつには見えないんじゃないのか?」
「こんなにもピュアな私に向かってそんなこというなんて…まぁ、とにかくそっちにいるって言うなら行くわ。もしいなかったら、こうだからね」
グミはメイス状の我を悪人の頭に押し当てる。シュウは、
「今ものすごい悪寒が…やっぱ今の幻覚…って先いくなって言ってるだろ…」
グミは次々と絡んでくる不届きな輩を全員ぶっ飛ばしながら、シュウが指差した方向へと飛び出していった。
*
「ほっ…幻覚じゃなくて良かったぜ」
シュウが見たものは幻ではなかったらしい。それは目の前にいる大きなペリカン…といっても胸に大きなポシェットをぶら下げているところから、普通のペリ カンでないのは一目瞭然だ。グミはと惑うことなくペリカンに話しかける。
「あの、ペリカンさん。あなたがここではないどこかに連れて行ってくれるって聞いたんだけど、本当ですか?」
「そうだクワッ! 1500メル払えばボクのポシェットに入れて、ジパングまで連れて行ってあげるクワッ!」
ジパング…噂には聞いていたが、こうやって行くのか。知らなかった…。
「メル払うんで乗せてってくださいなっ!」
「じゃあメルをこっちの小さなポケットに入れて、君たちは大きなポケットに入るクワッ!」
グミは財布から、1500メルを取り出してポシェットの前のほうにあった小さなポケットへとねじ込み、自分はポシェットの中に入る。
「わぁ…暖かいし、思ったより広いかも。はぁ楽しみだなぁ…。あとシュウは、自分でお金払ってね。もしないんだったらまた借金だから」
シュウは、
「ふっ…そう来ると思ったぜ。だからさっきあいつから財布ぱくっといたんだ。えーっと1500メルっと…」
シュウはさっき盗んだ財布を取り出し、大きながまぐちを開ける。
「っと…1メルたりともはいってねぇ…」
「じゃあね〜シュウ。私楽しんでくるから〜。それじゃペリカンさん、出発進行ー!」
グミの合図と共にペリカンは大きな翼を羽ばたかせて宙に浮かぶ。本気でシュウを置いていくつもりだろうか。
シュウは、
「うわ! ちょっと待ってくれよ! な…・借金でいいから頼む!」
何でこんなに必死なんだろうか…。グミはしょうがないなぁといって最初から用意していた1500メルを小さなポケットへと詰め込む。シュウはグミがメルを 入れたのを見るやいなや、ペリカンのポシェットに入り込んだ。
いきなり入り込んできたシュウに対してグミが反抗する。
「わ! どこ触ってんのよ! コレ一人用みたいだから降りて!!」
「しょうがないだろ狭いんだから!それに俺はまだどこも…」
「まだって何よ! もし次やったら…あ!」
また触ったのか…手癖の悪いやつだ……
「いや違う! 違うって!! 今のは…そうだレフェルがやったんだ!!」
「んなわけないでしょ!」
ゲシバシバキゲシ(効果音のみお楽しみください)
どうやらシュウは静かになったようだ。我のせいにしようとした罰だろう。しかし、ほんの数分間ではあったが、グミがいつになく楽しそうにしていたのは気の せいだろうか。
*
「ジパングに到着クワッ!」
二人はもぞもぞとポシェットのなかから這い出る。シュウが入ったときよりもぼろぼろになっているが、大して気にする必要もないだろう。グミは、
「この花…きれいだね…」
と、木に咲くピンク色の花に見とれていた。確か桜という木に咲く花だ。シュウが花などに関心を持つはずがないので、我が適当に相槌を打つ。
「コレは桜という木だ。本来春の一時期にしか咲かない花だが、ここは特別な気候のせいかずっと咲いてるようだな」
「へぇ…そうなんだぁ。それにしてもキレイだねー。そういえばシュウは?」
そういえばさっきからあいつの姿が見えないな。救急病院にでも運ばれたのかもしれない。
「そういえばグミ、ひな祭りをしにジパングにきたんじゃないのか?」
「そうだった! ちょっとそこの刀持った人に聞いてみるね」
刀を持った人…異国の剣士「侍」にグミはひな祭りのことを聞きに言った。
「あの…ここジパングでひな祭りのすごいものがあるって聞いたんですが」
「あぁそれなら広場にある大ひな人形だな。普通のものの3倍はあるからみておいで」
「はーい。ありがとうございましたー」
なるほど、PT屋の情報は正しかったらしい。大ひな人形とは我も少し興味がある。だが突然の大きな音に思考が吹き飛んだ。
「パンパンパンパンパン!」
「銃声!?」
何だ? ギャング同士の抗争か何かか!? が、音の主は我もグミもよく知ってる人物だった。
「よぉーさっさとこないから先に射的して遊んでたぜ。今日は抜き打ちの練習もできなかったからちょうどいい的があって助かった」
 …。
グミはあまりのショックに口をあけたまま固まってしまっていた。それはそうだろう……五人ばやしも三人官女もお雛様もお内裏様も…全て正確に心臓や頭と いった急所を打ち抜かれていたのだから。まったく何を考えてるんだあいつは…
「いやぁ…今日も完璧だな。15人全員アレで死んだぜ…ん? グミどうした?」
「あんたなにやってんの!!!!!!!」
「いやだから射撃の訓練を…って待て…早まるな! 悪いことしたなら謝るから!!」
「謝って済むかい! スマッシュ!!」
我の巨大化した本体はシュウに向かって全力で振り下ろされた。シュウはとっさにバズーカで受け止めたが、その圧倒的な質量に勝てるはずもなく、地面に叩き つけられる。
「次やったら…ゆるさないから…ぁ…」
スマッシュを使ったグミも疲労でその場に崩れ落ちる。右に我を抱えたグミ、左にバズーカを抱えたシュウ。
本来右側に男で、左側に女だが我にはどう見てもお内裏様とお雛様に見えた。それも立場と力をうまーく表現したひな人形だ。