エピローグ
朝(五日目)
 死者一名。アリス死亡。死因は発狂後、自分の首を絞めての窒息死。
 最後の放送。白々しすぎる事後報告。
「おめでとう! 人狼は村からいなくなりました。以下、ネタバレでーす。推理は当たってたかな? では発表します。
人狼―アリス、ユーゴ
狂人―マイ
祈祷師―カタール
牧師―ゼフ
村人―シゲ、ビスマルク、ポーラ、マリアでしたー」
 淡々と読み上げられる今回の配役。完全に狂っている。
残された俺たちは再会できた感動もひとしおに、これからのことを考える。今の放送を聞いて一つ、目標が出来た。
 昨晩、アリスが飲んでいたワイン。全員、未成年ではあったが構わず配る。祝杯とも死者への供物とも取れる乾杯。三人とも何も言わずただそれを口に運んだ。渋く、強い香りの液体が喉奥を伝い、胃が燃えるように熱くなる。
「俺たち、生きてるんだな」
 当たり前のことを有難いことであるかのようにこぼすシゲ。失ったものは大きく、得たものは限りなく少ない。村長を含め、十人いた村人は今や三人になっていた。
「誰も悪い奴なんていなかったんだよな。それぞれが誰かのことを考えて、そうやって考えた最良の結果が今回の事件であっただけで。あんなに疑って、信じられなくて、それでも俺たちだけは生き残って……」
 故人の冥福を祈るゼフ。最早、神に仕えるマリアが祈ることはない。
 村人の誰もが人狼になりえた。もしかしたら、俺やマイでさえも。その時、俺は自分と村人の誰かを天秤にかけることが出来るだろうか。きっと出来ないだろう。それほどまでに他人の命と自分の命というのはかけ離れた重さだということだ。
「今回は村人たちが勝てた。でも、もしまた同じようなことがあれば、結果は分からない」
 さっきの道化師のような男がいる限り、何度でも事件は起こりうる。また、誰かが人を疑い、憎しみの果てに命を絶つだろう。縮小され、強制される戦争。繰り返してはいけないことだと、残された三人共理解していた。
 アリスから渡されたワインを一気に飲み干し、空き瓶をみんなで会議したテーブルの上に立てる。そして、生き残った二人と自分自身に言い聞かせるように言った。
「悲しみを乗り越えて、この三人で旅に出よう。失ったものと引き換えに得た、信頼という宝物を胸に。あのふざけたゲームやった道化のような男に探し出し、復讐するために」



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